誰もが知っておくべき熱中症の基本

熱中症

はじめに〜発症者、死亡者ともに増加している熱中症

 この記事は熱中症についてまとめたものです。ガイドラインや医学文献を元に丁寧にまとめましたが、手っ取り早く対応方法を知りたいという方は、「熱中症に適切に対応しよう!」という章をまずご覧ください。その上で、他章も読んでいただければ幸いです。

 地球温暖化に伴う気温の上昇により、極端な高温が発生する頻度が増加し、熱中症のリスクが高まっています。

 下のグラフは、人口動態統計(厚生労働省)に基づく熱中症死亡者数の年次推移を示したものです。1994年を境に死亡者数が大きく増加していますが、1995年に行われた国際疾病分類の変更に伴う死亡診断書作成法改訂がその原因の1つと考えられています。しかし、1995年以降も増加傾向にあることがわかります。熱中症による死亡者数は増えているのです。

熱中症死亡者数の年次推移(厚生労働省統計情報部資料)

 下のグラフは東京消防庁の熱中症による救急搬送人員数になります。その年によって波はありますが、令和3年を除くと増加傾向にありますね。熱中症は増えており、それによる死亡者数も増えているといえます。

東京消防庁管内の熱中症(熱中症疑いを含む)による救急搬送人員

 高齢者が自宅内で熱中症になるケースがあることをご存知の方が多いと思いますが、思春期前の子どももリスクのある年齢と言われています。とくに乳児は、炎天下で車内に閉じ込められると数時間以内に亡くなってしまう可能性があります

 また、小中高校生では炎天下での運動時に熱中症のリスクがありますし、高温下で仕事をされる社会人の方も同様に熱中症のリスクがあります

 幅広い世代に熱中症リスクがあるのです。したがって、すべての方に熱中症の基本的な知識を持っていただき、適切に予防や対応ができるようになっていただきたい、と強く考えています。

 総合診療医かずきは現在クリニックで勤務中ですが、以前総合病院に勤務していた時代があり、熱中症患者さんの診療も行っていました。そのような経験をもとに、すべての方に知っておいていただきたい熱中症の基本について解説します。この記事は、日本救急医学会の「熱中症診療ガイドライン2015」「熱中症診療ガイドライン2024」および、New England Journal of Medicine 2019;380:2449-2459「Heatstroke」という総説文献をもとに、総合診療医かずきの経験・視点でまとめたものになります。

 みなさまは、この記事を読むことで熱中症について必要な知識を身につけることができ、適切に対応することができるようになるので、ぜひ最後までご覧ください。

熱中症の重症度分類〜どんなときに熱中症を疑えばよいのかを知ろう

 まず、どのようなときに熱中症を疑うか、について解説します。ここはとても重要なので、ぜひ覚えていただきたいところです。どんなときに熱中症を疑うのか、についての知識がないと、見過ごしてしまって重症化しかねませんから。

 下の表は救急医学会の熱中症診療ガイドライン2015から引用したものです。このガイドラインは2024年の改定によってⅢ度が細分化されⅢ度とⅣ度に分かれたのですが、一般のみなさまにとって重要なⅠ度Ⅱ度については変わっていませんし、熱中症の重症度分類を理解するうえでガイドライン2015年の表がとてもわかりやすく秀逸なので、これをもとに解説していきます。

 表の解説の前に、この表に付記されている文言があるのですが、その冒頭がとてもとてもとても重要なのです。付記の中から、とくに重要な文をいくつかご紹介します。まずは以下の一文です。

  • 暑熱環境に居る、あるいは居た後の体調不良はすべて熱中症の可能性がある。

 熱中症は軽症から重症まで連続的に移行していく病態と考えられています。初期の軽症の段階で熱中症による異常と認識して、適切に対応することによって重症化を防ぐことができ、命を守ることにつながるのです

 逆に、熱中症による異常を認識できず、そのまま放置してしまった場合、短時間で重症化してしまい最悪死に至ることもあるのです。

 暑い環境下に居た、または居た後の体調不良はすべて熱中症の可能性がある、ということをまずは理解しましょう。

 では表の解説に入っていきます。

日本救急医学会熱中症分類2015
日本救急医学 熱中症診療ガイドライン2015より引用 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/heatstroke2015.pdf

 この表には付記があることは先に述べましたが、その中に以下の一文があります。

  • 各重症度における症状は、よく見られる症状であって、その重症度であれば必ずそれが起こる、あるいは起こらなければ別の重症度に分類されるというものではない。

 これは、つまり各重症度の境界がクリアカットではなく曖昧であることを示唆しています。このことを理解した上で各重症度をみていきましょう。

Ⅰ度熱中症  熱失神(heat syncope) 熱痙攣(heat cramp)

 まず、Ⅰ度のところを確認しますが、このⅠ度・Ⅱ度・Ⅲ度という分類は日本救急医学会の分類であり、国際的には熱失神(heat syncope)熱痙攣(heat cramp)という状態に該当します。Ⅰ度(熱失神、熱痙攣)では以下の症状が起こり得ます。

Ⅰ度熱中症の症状
  • めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛、筋肉の硬直(こむら返り)、意識障害を認めない(JCS=0)

 血管が拡張することで脳血流が低下し、めまい・立ちくらみ・生あくびが出てきます(熱失神)。この時点では、体温は正常です。

 炎天下で作業やスポーツを行ったとき、水分のみ補給し塩分を摂取しないと、筋肉の痛みや硬直・痙攣を起こすことがあります。これが熱痙攣の状態です。

 総合診療医かずきは、以前夏のフルマラソンに出走したことがあります。3回出走し2回完走、1回はリタイアしました。リタイアしたときのことですが、序盤からいつもよりも発汗が多かったことを覚えています。水分補充はしていたのですが塩分補充を行っていなかったのです。30kmを過ぎたあたりからふくらはぎが痙攣するようになり、35km地点で走行不能となりリタイアしました。塩分の補充が重要であることを学びました。

 暑い環境下にいた人がこれらの症状を訴えたとき、熱中症を考えなければなりません。これらの症状がすべて揃っている必要はありませんので、どれかひとつでも当てはまる症状があれば熱中症を疑うことが大切です。結果的に熱中症ではなかったということもあるでしょう。そうだとしても、熱中症ではないと判断できるまでは熱中症と疑うことがとてもとても大切なのです。ここでJCSという表現がありますが、これはJapan Coma Scaleのことで、JCS=0というのは意識状態が清明な状態のことを意味しています。

 さて、この表には、「Ⅱ度の症状が出現したりⅠ度に改善が見られない場合、すぐ病院へ搬送する(周りの人が判断)」、とされています。そうなのですが、前述のとおり各重症度の境界が曖昧なので、判断に迷ってしまいます。この点をどうするかについては後で解説します。

Ⅱ度熱中症  熱疲労(heat exhaustion)

  次は熱中症ガイドライン2015におけるⅡ度について解説します。国際的には熱疲労(heat exhaustion)に該当します。

Ⅱ度熱中症の症状
  • 頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下(JCS≦1)

  この状態は、重症の一歩手前です。汗で水分や塩分を失ってしまい、循環血液量が低下し、頭痛・嘔吐・倦怠感・低血圧などが出現します。集中力や判断力も低下することがありますが、受けこたえはできます。JCS≦1となっていますが、JCSは前述の通りJapan Coma Scaleのことで、≦1というのは0か1ということです。JCS=0というのは「意識清明」であること、JCS=1というのは「だいたい清明であるが、今ひとつはっきりしない」という状態のことです。

 逆に言うと、意識状態が清明ではない場合、具体的には「自分の名前が言えない、自分の年齢が言えない、日付が言えない、場所が言えない、呼びかけても目を開けない」という状態の場合、重症(Ⅲ度以上)という判断になり、救急搬送が必要なのです。それぞれの重症度でどのように対応すべきかについては、もう少し後にわかりやすく解説します。

 さて、Ⅱ度(熱疲労)では、体温は38-39℃になっていると言われていますが、この体温は深部体温で測定したものです。深部体温は直腸温で評価するので、通常の腋下体温では評価できません腋下体温が高くないからといって、Ⅱ度ではないという判断はできませんのでご注意ください。

 前述の通り、「Ⅱ度の症状が出現したりⅠ度に改善が見られない場合、すぐ病院へ搬送する(周りの人が判断)」、とされていますが、Ⅰ度とⅡ度の境界が不明瞭で、一般の方にはなかなかわかりづらいと思います。そこで、総合診療医かずきとしては、Ⅰ度Ⅱ度の区分けにこだわらず、初期対応を行って熱中症の症状が改善したら医療機関を受診せずにそのまま経過をみてOK、改善しなければ医療機関を受診する、というやり方を提唱したいと思います。このあたりの、熱中症への対応については別の章で解説します。

Ⅲ度熱中症  熱射病(heat stroke)

  Ⅲ度は熱中症の最重症、国際的には熱射病(heat stroke)に該当します。日本救急医学会の熱中症診療ガイドライン2024では、同ガイドライン2015のⅢ度はⅢ度とⅣ度に細分化されましたが、一般の方にはⅢ度以上の細かな分類は不要なので、ここではガイドライン2015に則ってⅢ度(国際的には熱射病)の説明をします。

 Ⅲ度(熱射病)は、熱の蓄積が熱の放散を上回り、体幹温度が上昇します。そのため、中枢神経系(CNS)機能障害、多臓器不全、極度の高体温(通常 40.5°C 以上)を呈します。体温は深部体温、つまり直腸温であって、普段測定している腋下体温ではありません。

Ⅲ度熱中症の症状 下記3つのうちいずれかを含む
  • 中枢神経症状(意識障害JCS≧2、小脳症状、痙攣発作)
  • 肝腎機能障害
  • 血液凝固異常

 これらのうち、肝腎機能障害と血液凝固異常は血液検査をしないとわかりません。病院前の段階でⅢ度と判断するには、中枢神経症状の有無によります。

 意識障害JCS≧2というのは意識が清明ではない状態のことで、具体的には「自分の名前が言えない、自分の年齢が言えない、日付が言えない、場所が言えない、呼びかけても目を開けない」という状態をさします。小脳症状というのは、身体のバランスを取ることができない・手足の動きをうまく調節できない、というものです。その他、痙攣(けいれん)発作も中枢神経症状に含まれます。これらの中枢神経症状があれば、応急処置をしながらすぐに救急車を呼びましょう。

古典的熱射病と運動性熱射病

 熱中症Ⅲ度に該当する熱射病(heat stroke)には、古典的熱射病と運動性熱射病の二種類があります。同じ熱射病でも起こりやすい年齢層や状況がかなり異なっているので、この2つの分類をざっくりと理解しておくことで、見逃しを減らすことができます。

特徴古典的熱射病運動性熱射病
年齢層思春期前、高齢者思春期後
発生同時多発的(熱波時)単発的
活動性安静、平常時激しい運動、活動時
発生メカニズム環境熱の吸収と放熱不良過剰な熱産生>放熱
医薬品使用処方薬あり処方薬なし
健康状態慢性疾患あり一般的に健康
発汗ないこともある(皮膚乾燥)発汗あり(皮膚湿潤)
中枢神経症状よくみられるよくみられる
New England Journal of Medicine 2019;380:2449-2459 TABLE1より改変

 運動性熱射病は、激しい運動や仕事中に起こるもので発汗があるのでわかりやすい熱中症といえます。一方、古典的熱射病は激しい活動がなく発汗がないこともあり、判断しづらい熱中症と言えるかもしれません。高齢者では古典的熱射病が多いのですが、若年層にも起こり得ることには注意が必要です。

 さて、熱中症についてⅠ度からⅢ度まで解説しましたが、Ⅰ度の段階で適切に対応すれば多くの熱中症は重症化せずに改善します。初期段階で熱中症の疑いがあることに気づき、適切な処置をほどこすことが最も重要なのです。次の章では、熱中症の応急処置について解説します。

熱中症に適切に対応しよう!

 ここでは、熱中症の応急処置について解説します。

 繰り返しになりますが、最も重要なことは熱中症の初期段階で気づき適切な対応を行うこと、です。これに尽きます!

 しかし、「Ⅱ度の症状が出現したりⅠ度に改善が見られない場合、すぐ病院へ搬送する(周りの人が判断)」とされているものの、Ⅰ度とⅡ度の症状の区分けがわかりづらいという問題がありました。Ⅱ度の症状には「頭痛」があるのですが、頭痛はかなり軽症な熱中症でも起こり得ます。実際に、熱中症診療ガイドラインの付記にも「各重症度における症状は、よく見られる症状であって、その重症度であれば必ずそれが起こる、あるいは起こらなければ別の重症度に分類されるというものではない」と記載されています。頭痛があれば即Ⅱ度と言い切ることもできないのです。

 そこで、総合診療医かずきとしては、Ⅰ度Ⅱ度の区分けにこだわらず、初期対応を行って熱中症の症状が改善したら医療機関を受診せずにそのまま経過をみてOK、改善しなければ医療機関を受診する、というやり方を提唱したいと先に述べました。

 環境省熱中症健康保健マニュアル2022に「熱中症を疑ったときには何をすべきか」というフローチャートがあるのですが、このフローチャートが総合診療医かずきの提唱する考え方に合致しています。とてもわかりやすいので、紹介します。これだけあれば、初期対応としては十分だと考えます。

(環境省熱中症環境保健マニュアル2022から引用https://www.wbgt.env.go.jp/heatillness_checksheet.php

 チェック1で熱中症を疑う症状があるかどうかをチェックしています。ここで出ている症状は熱中症Ⅰ度Ⅱ度Ⅲ度でみられる症状が列挙されています。ここまで読み進んでいただいた方であればおわかりだと思いますが、これらの症状のうちどれかでも当てはまるものがあれば熱中症を疑う必要があります

 チェック2では意識障害の有無を確認し、意識障害があればⅢ度熱中症が疑われるので、救急車を呼びます。救急車到着までの間、涼しい場所への避難・身体を冷却するなどの応急処置を行います。身体を冷却するときは、大きな血管が通っているところを冷却するのが効率的なので、首・脇下・大腿の付け根を集中的に冷やしましょう

 意識障害がなければ、涼しい場所に避難し身体を冷却します。そしてチェック3で、自力で水分摂取ができるかどうかを確認します。自力で水分摂取ができない場合、点滴が必要になる可能性が高いので、医療機関への受診が必要となります。自力で水分摂取ができる場合、水分と塩分の両方を摂取させましょう水分摂取のみだと、筋肉の痛みや硬直・痙攣を起こしてしまうからでしたね。

 チェック4で熱中症の症状が改善すれば、このまま経過をみて問題はありません。逆に応急処置を行っても症状が改善しないときは、医療機関への受診が必要になります

まとめ

 以下に、最重要項目をまとめました。適切に熱中症を疑い、適切な対応をすることで、重症化を予防しましょう。

  • 熱中症は、発生数・死亡者数ともに増加傾向にあります。
  • すべての方が熱中症の基本的な知識を持ち、適切に予防や対応ができることが望ましいでしょう。
  • 暑熱環境に居る、あるいは居た後の体調不良はすべて熱中症の可能性があることを認識しましょう。
  • 日本救急医学会の熱中症診療ガイドライン2015の熱中症Ⅰ度、Ⅱ度、Ⅲ度について解説しました。
  • 環境省熱中症健康保健マニュアル2022の「熱中症の応急処置」を参考に、熱中症の適切な対応について以下のようにまとめました。
    • 意識障害があるときはⅢ度の可能性があるので、救急車を呼びましょう
    • Ⅰ度Ⅱ度が疑われる症状(めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛、筋肉の硬直、頭痛、嘔気嘔吐、失神)があれば、涼しい場所に避難して身体を冷却しましょう。その上で、自力で水分摂取ができない場合は医療機関を受診しましょう。
    • 涼しい場所に避難して身体を冷却し、水分と塩分を両方摂取させましょう。症状が改善すればそのまま経過をみて良いですが、改善しないときは医療機関を受診しましょう。

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