インフルエンザワクチンまとめ2024年

ワクチン

はじめに

 2024年はインフルエンザワクチンに大きな変化がありました。今までの注射のインフルエンザワクチンに加えて、経鼻生ワクチンが接種できるようになったのです。

 そもそもインフルエンザワクチンの効果ってどの程度あるのか、新しい経鼻生ワクチンの効果はどの程度なのか、いろいろと疑問があると思います。この記事では、以前からある注射のインフルエンザワクチン、そして新しい経鼻生インフルエンザワクチンについて総合診療医かずきが概説します。

 この記事を読むことで、インフルエンザワクチンについて十分な知識を得ることができます。

インフルエンザワクチンの種類とその特徴・効果

 従来の注射のワクチンは不活化ワクチンになります。今年から始まった経鼻ワクチンは生ワクチンになります。それぞれの特徴・効果について解説します。

不活化ワクチン(注射)

 従来の注射のワクチンです。生後6ヶ月から接種可能です。年齢の上限はありません。6ヶ月以上であればだれでも接種可能です。妊娠中でも接種できます

 12歳までは2回接種で、2週間以上空ければ2回目の接種は可能ですが、できれば4週間空けた方がより効果的と言われています。13歳以上は1回接種です。一方、米国は日本とやや異なっています。

日本

  • 13歳以上 1回接種
  • 6ヶ月から12歳まで 2回接種
    • 2~4週間(できれば4週間)空けて

米国

  • 9歳以上  過去の接種歴にかかわらず1回接種
  • 6ヶ月から8歳まで
    • 過去にインフルエンザワクチンを2回接種している場合は1回接種(過去の2回の接種は同じシーズンでなくてもよい)
    • 過去にインフルエンザワクチンを2回接種していない場合、4週間以上の間隔を空けて2回接種

 日本とやり方が違いますね。日本は12歳まで2回接種になっています。実は、2回接種の方が有効だという明確な根拠はないのです。したがって、米国の方が合理的ということになります。こどもを1ヶ月おきに2回ワクチン接種に連れて行くのはけっこう大変ですよね。個人的には米国式でも良いと思っていて、実際にそのようにしている診療所や病院もあります。

 さて、この不活化ワクチンの効果はどうか、気になりますよね。ワクチンを打ったにもかかわらずインフルエンザに罹ってしまった経験がある方もいるでしょうし、そのような話を聞いたことがある方も多いと思います。ワクチンの効果はVE(vaccine effectiveness)で表します。まずVEについて解説します。

  • ワクチン未接種の集団100名から、20名が感染した。
  • ワクチン接種の集団100名から、5名が感染した。
  • この場合、ワクチンを打つことで、本来20名感染するところが5名に減った。つまり15名がワクチンによって感染を免れたことになります。
  • この場合のVEは 15/20✕100=75% となります。

 VE75%というのは、ワクチンを打つことで75%その病気に罹りにくくなる、と言い換えることができます。VEの値が高くなればなるほど、その病気に罹りづらい、つまりワクチンの効果が高いということです。

 ではインフルエンザの不活化ワクチンのVEはどの程度でしょうか。

  • 発症予防効果
    • 60歳以上 58%
    • 2歳未満   66%
  • 重症化予防効果(入院の予防)
    • 60歳以上 45%
    • 17歳未満 57%

 不活化ワクチンの効果は、発症予防では年齢によって若干異なりますが、ざっくり6割程度の効果と言えます。これではワクチン接種しても罹患することはありますよね。ただ、それなりに発症予防効果はあるので、できるだけインフルエンザに罹りたくないという方はワクチンを接種をするのが良いでしょう。そして、ワクチンだけでは不十分なので、流行期にはマスクを着用するなどの感染対策を加えると良いでしょうコロナ禍のとき、皆がマスクをしたり手指消毒を行って感染対策をしました。このときインフルエンザは全く流行しませんでしたあの頃のように常時マスク着用する必要はありませんが、流行期に限って対策を行えば良いのです。インフルエンザに罹っても良い、という方はワクチン接種も、マスクもしなくて良いでしょう。

 さて、不活化ワクチンについては重症化予防効果もあります。ここで言う重症化というのは「入院が必要な状態」ということになります。高熱が出て自覚症状がいかに辛かったとしても「入院が必要な状態」でなければ重症とは判定されません。重症化するのは、高齢者か5歳未満の方が多いので、これらの方は積極的にワクチンを接種するのが良いでしょう。また、重症化しやすい方と同居されている家族・医療従事者も積極的に接種すべきです

 重症化リスクが高くない方にとって、この不活化ワクチンを打つ意味はインフルエンザ発症予防効果を期待する、ということになります。しかしながら、発症予防効果は6割前後なので、そこまで高くはありません。一方で、幅広く集団でワクチン接種をすることで「集団免疫」が得られることも知られています。これはどういうことかというと、幅広くワクチン接種をしているコミュニティではインフルエンザが流行しづらくなる、ということなのです。これを証明した日本の研究があるので紹介します。

  • 日本では1962年から1987年まで学童に対して強制的にインフルエンザワクチン接種が行われていた。
  • 1987年の中止のあと、高齢者のインフルエンザ死亡率および肺炎の過剰死亡率が上昇した。
  • インフルエンザワクチンの強制接種による集団免疫によって、高齢者の死亡率を抑制することができると推測される。
    • The Japanese Experience with vaccinating schoolchildren against influenza. Thomas A.R : N Engl J Med, March22,2001

 この研究は日本のことを調査した研究ですが、研究者は日本人ではなく米国人です。

 これ以外にも、若年層のインフルエンザワクチン接種が集団免疫のために重要であることが、米国・英国・カナダなどの研究で証明されています

 では集団でどの程度の方がワクチンを接種するとアウトブレイクを防げるかというと、インフルエンザの場合はおよそ50-60%程度を言われています。

 現状、日本の年代別インフルエンザワクチン接種率は以下のようになっています。

  • 1歳未満     23.5%
  • 1〜6歳     48.6%
  • 6〜13歳     39.2%
  • 13〜65歳    23.3%
  • 65歳以上  54.8%  

 1〜6歳の接種率は50%近くになっていますが、他の年代ではまだ50%には届いていません。これだとアウトブレイクしてしまいそうですね。(実際、毎年アウトブレイクしています。)すべての年代で50%を超えてくると集団免疫が機能して、アウトブレイクしなくなると考えられます。

 次に2024年から接種可能となった経鼻生ワクチンについて解説します。

経鼻生ワクチン

 2024年9月26日にインフルエンザに対する新しいワクチン、フルミスト点鼻液®が発売されました。従来のワクチンは注射の不活化ワクチンでしたが、新しいワクチンは経鼻の弱毒生ワクチンになります。以下に特徴をまとめます。

  • 経鼻生ワクチン(フルミスト点鼻薬®)
    • 鼻腔に噴霧するワクチン
    • 適応は、2歳以上19歳未満
    • 片鼻に0.1mlずつ、両鼻で合わせて0.2ml 1回で投与

 従来の不活化ワクチンに比べて、注射ではないので接種時の苦痛が軽減されますね。また、従来の不活化ワクチンでは12歳以下だと2回接種が必要(日本)でしたが、この経鼻生ワクチンだと1回で済みます。これもメリットになります。では、この経鼻生ワクチンの副反応はどうなのか、気になります。

  • 経鼻生ワクチン(フルミスト点鼻®)の副反応
    • 鼻閉・鼻汁(59.2%)、咳、咽頭痛など 接種後2〜8日
  • 経鼻生ワクチン(フルミスト点鼻®)避けるべき人
    • 喘息、免疫不全の人

 鼻閉・鼻汁の頻度が約6割と高率になっていますが、重篤なものはありません。このワクチンは、欧米では10年以上の使用実績があり、有効性・安全性が確立されています。安心して接種できるワクチンと考えて良いでしょう。

 では、この経鼻生ワクチンの効果は従来の不活化ワクチンと比較してどうなのか、解説します。

  • 経鼻生ワクチン(フルミスト点鼻®)は従来の注射の不活化ワクチンに比べて
    • 小児では感染予防効果が高い。
    • 大人では優位性は証明されていない。

 小児では、この新しい経鼻生ワクチンを考慮しても良さそうです。

まとめ

 インフルエンザワクチンにまとめました。重要ポイントは以下のとおりです。

  • 不活化ワクチン(注射)の効果
    • 発症を約6割減らす。
    • 入院を約半数に減らす。
    • 重症化リスクのある高齢者や5歳未満の方、重症化しやすい方と同居している家族・医療従事者も積極的に接種すべき
  • 不活化ワクチンの発症予防効果は高くはないが、幅広く集団でワクチン接種をすることで「集団免疫」が得られる。
  • 経鼻生ワクチン(フルミスト点鼻®)について
    • 鼻腔に噴霧するワクチン 片鼻に0.1mlずつ、両鼻で合わせて0.2ml 1回で投与
    • 適応:2歳以上19歳未満
    • 副反応:鼻閉・鼻汁(59.2%)、咳、咽頭痛など 接種後2〜8日
    • 避けるべき人:喘息、免疫不全の人
  • 経鼻生ワクチン(フルミスト点鼻®)の効果
    • 小児では感染予防効果が高い。
    • 大人では優位性は証明されていない。
  • 小児では経鼻生ワクチンが新たな選択肢になる。

 以上、参考になれば幸いです。

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