2024-2025年の冬はインフルエンザが大流行しています。どこの医療機関も外来が混雑し、待ち時間が長くなっています。熱が出て体調が悪い時に、病院や診療所で長い時間待つのは苦痛ですよね。それよりも家で横になって休んでいたい、と思う方も多いのではないでしょうか?
実は、このような時期に「熱が出てもあえて受診しない」というのは、医学的な見地から考えても「わりと良い選択」だったりするのです。意外かもしれませんが、多くの方は受診しなくてももちゃんと治りますし、受診せずに薬で症状を緩和することもできるのです。
この記事では、総合診療医かずきが医学的な見地から、インフルエンザが流行しているこの時期に熱が出てもあえて受診しないという選択肢について解説します。
本当に受診しなくても良いのか?についての考察
「インフルエンザ流行期に熱がでても受診しなくてもよい」と言われても、本当にそうなのか?疑問に思う方が多いと思います。さまざまな疑問にひとつずつ答えていきます。
その前に、ここでは発熱に加えて喉の痛みや鼻水・鼻詰まりなど、喉や鼻に症状を伴っている発熱のとき、という前提で話していきます。いわゆる感冒症状ということです。
受診しないと本当にインフルエンザかどうかがわからないのでは?
受診しないと本当にインフルエンザかどうかがわからないのでは?と思うのは普通ですよね。普通の風邪なのか、インフルエンザなのか、それとも新型コロナ感染なのか、、、。
ただ、考え方・見方を変えると、65歳未満の方で基本的に健康な方であれば、インフルエンザでも新型コロナ感染でも(もちろん普通の風邪でも)、特別な治療をしなくても自然治癒します。つまり、受診しなくても治るということです。
さらに今は、調剤薬局などでインフルエンザや新型コロナ感染の迅速検査キットが販売されていることが多いので、自宅でのセルフ検査で判断することも可能なのです。医療機関での検査とセルフ検査で精度に大きな差はありませんので(感度70-80%程度)、セルフ検査の結果をもとに学校や職場への出勤のタイミングを判断して良いでしょう。
受診したほうが早く治るのでは?
早く病院を受診して、病院の薬をもらったほうが早く治ると考えている方が多いかもしれませんが、実はそういうことはありません。普通の風邪については「治癒を早めるような治療薬」は存在しません。あくまで「症状をやわらげる効果しかない」というのが現状です。
また、ドラッグストアで売っている薬には病院で処方される薬の成分が含まれているので、医療機関を受診しなくても症状をやわらげる薬を飲むことも可能なのです。どの薬を選ぶのが良いかわからなければ、ドラッグストアには薬剤師さんがいるので相談すれば良いでしょう。
こちらの記事でも解説しているので、ご参照ください。(「熱が出たらどうする?コロナ禍を経ていまどうすべきか」https://generalistkazuki.com/fever_outpatient/)
インフルエンザだった場合、抗インフルエンザ薬を飲む必要があるのでは?
インフルエンザだった場合は抗インフルエンザ薬を飲まないといけない、と思っている方が多いかもしれませんが、実は多くの方にとって必須な薬ではありません。
抗インフルエンザ薬には、オセルタミビル(商品名 タミフル)・ザナミビル(商品名 リレンザ)・ラニナビル(商品名 イナビル)・バロキサビル(商品名 ゾフルーザ)・ペラミミビル(商品名 ラピパクた)があります。
これらの抗インフルエンザ薬の効果は、リスクのない方にとっては「有症状期間を約1日短縮する」というものになります。ただ、通常のインフルエンザであれば、抗インフルエンザ薬を使わなくても発熱は3日程度で治まります。(その他の咳・鼻水などはもう少し続くことが多いです。)一方で、高リスク患者さんにとっては「入院を減らす」という効果があり、入院患者さんにとっては「入院期間の短縮」「死亡の減少」という効果があります。下にまとめます。
「発症から48時間以上経過すると、プラセボと差がない」のです。プラセボというのは、その薬が本当に効果があるかどうかを比較する際に使われる偽薬のことです。偽薬なので、外観は本当の薬と同じですが、実は薬の成分は入っていないものです。本当の薬のことを「実薬」、薬成分が入っていないものは「偽薬=プラセボ」です。
つまり、発症から48時間以上経過した場合、薬の効果は出ないということなのです。48時間以上経過した場合、受診する意味が少なくなってしまいますね。
では、高リスク患者はどのような方が該当するのかですが、以下のような方になります。
- 65歳以上
- 5歳未満(とくに2歳未満)
- 免疫不全(抗がん剤使用、ステロイド薬使用など)
- 慢性呼吸器疾患(喘息、COPDなど)
- 悪性腫瘍(がん)
- 妊婦
これらに該当する方は、インフルエンザに罹患したときに抗インフルエンザ薬を飲んだほうが良いでしょう。一方、該当しない方は抗インフルエンザ薬が必須ではないということになります。
「有症状期間が1日でも短縮できるのであれば飲みたい」と考える方もいると思いますし、そのような考え方も否定するつもりは全くありませんが、2025年1月10日には抗インフルエンザ薬の需要拡大により在庫不足となっていることが報道されました。このような状況では、抗インフルエンザ薬を求めて医療機関を受診したとしても、高リスク患者への処方が優先され、リスクのない方には処方してもらえない可能性があるのです。
これらのことを総合的に考えると、インフルエンザや新型コロナ感染症が流行している時期に、あえて医療機関を受診しないという選択肢は十分に考えられるということになります。
熱が出て体調が悪い時に医療機関で長い待ち時間を耐えたにもかかわらず抗インフルエンザ薬が処方されないというリスク、抗インフルエンザ薬の効果(有病期間を1日程度短くする)の程度、セルフ検査である程度判断可能であること、ドラッグストアなどで処方箋がなくても購入できる薬である程度症状緩和が可能であること(どの薬を選ぶかについては薬剤師さんに相談可能)、などを考えて判断していただければ良いでしょう。
では、絶対に受診したほうが良い方について次に解説します。
絶対に受診したほうが良いケース
受診したほうが良いケースも知っておきましょう。
喉や鼻の症状が全くない場合
インフルエンザは高い熱が特徴で、熱に伴う全身症状として筋肉痛や関節痛・頭痛も出現しますが、多少なりとも喉や鼻の症状を伴います。(発熱のあと少し時間が経過してから喉や鼻の症状が出てくることもあります。)逆に、喉や鼻の症状を全く伴わない場合は、インフルエンザ以外の病気の可能性を考えなければなりません。発熱後、少し経過をみても喉や鼻の症状が全くない場合は、医療機関の受診をおすすめします。
高リスクに該当する人
前述の高リスクに該当する方は、抗インフルエンザ薬を内服することで入院を減らすことができるので、受診すべきですね。
具体的には、65歳以上・5歳未満(とくに2歳未満)・免疫不全(抗がん剤・ステロイド使用など)・慢性呼吸器疾患(気管支喘息、COPDなど)・悪性腫瘍(がん)・妊婦、になります。
意識状態が悪い時
意識状態が悪い時は脳の病気を考えなければなりません。高熱だけでボーっとすることもありますが、ウイルス性脳炎や髄膜炎の可能性を考慮しなければならないので、急いで医療機関を受診する必要があります。
熱が4日以上続くとき
インフルエンザや通常の風邪の場合、熱は3日以内で下がっていくことが多いです。4日以上続くときは、それ以外の病気を考える必要性が少し出てくるのです。ウイルス性肺炎や細菌性肺炎です。4日以上熱が続いたら即肺炎を疑うというわけではありませんが、発熱の期間が4日を超えてより長くなればなるほど他の疾患を考えなければならないので、医療機関受診をおすすめします。
がたがた震える
インフルエンザに罹ると寒気をすることが多いのですが、寒気だけではなくがたがた震えが止まらなくなってしまう、温かくしても震えが止まらないときは要注意です。このような震えを医学用語では戦慄(せんりつ)といいますが、これは血液に細菌が入っている状態つまり菌血症(きんけつしょう)を示唆します。速やかに原因検索し治療を開始しないと、さらに重症化し敗血症(はいけつしょう)に至る可能性があるので、急いで医療機関を受診する必要があります。
最後に
インフルエンザが流行している時期、あえて受診しないという選択について解説しました。意外だったかもしれませんが、医学的にも「あり」な選択なのです。皆さまご自身の価値観に照らし合わせて、今後の受療行動に活用していただければ幸いです。
誤解のないように言いますが、決して受診するなと言っているわけではありません。やはり受診しないと心配という方も多いでしょうし、そのような方は受診していただくのが良いと思います。
医学的に問題ない状況なのに受診した患者さんに対して「なぜ受診したのか?」と患者さんを問い詰める医者が(少数かもしれませんが)存在します。でも、それは間違いだと総合診療医かずきは思うのです。患者さんが受診するのは、患者さんなりの考え方があるはずです。その患者さんなりの考え方をわれわれ医師は理解しようと努め、それを把握した上で丁寧に対応する、そういった責務がわれわれ医師にはあると思うのです。わたくし総合診療医かずきも、そういう診療を心がけていきたいと考えています。
コメント