冬場に流行しやすいノロウイルス感染症、どのような病気なのか、セルフケアで治すことは可能なのか、総合診療医が解説します。
はじめに
ノロウイルスは急性胃腸炎の主な原因のひとつで、冬場に流行しやすいのが特徴です。実は通年で発生するのですが、冬場に多く発生するので冬場の胃腸炎=ノロウイルスというイメージが強いようです。ノロウイルス以外のウイルスによる胃腸炎も冬場に発生します。ただ、症状は類似しており、治療法も基本的に変わりはないので、原因ウイルスを特定する理由はありません。
ノロウイルス感染症は、特別な治療薬はなく、基本的に自然軽快する病気です。セルフケアでもある程度対応できるので、混んでいる医療機関に受診せずに対応することも可能です。胃腸炎症状が出たときどのように対応すべきか、どのようなときに受診すべきか、この記事を読むことで整理することができます。
では、総合診療医がわかりやすく解説します。
ノロウイルス感染症の特徴
では、ノロウイルス感染症の特徴を解説していきます。
感染経路
便や嘔吐物に含まれるノロウイルスが、口から体内に入って拡がっていくというのが主な感染経路になります。その他に汚染された食品や水から感染する場合もあります。食品としては、カキなどの貝類、葉物野菜などがあります。
感染成立に必要なウイルス量は極めて少なく(ウイルス粒子100個未満)、ノロウイルスは乾燥にも強く、60℃までの加熱やアルコール消毒にも耐えることが出来るので、とても感染しやすいのです。
感染予防については後でまとめますが、嘔吐物や便を処理した後の石鹸を使った十分な手洗い、カキなどの貝類を食べる場合は60℃以上に加熱することが重要です。
潜伏期間、持続期間
潜伏期間は通常24~48時間で、症状は急に発症し、通常48~72時間続いて、その後急速に回復します。通常、2〜3日で改善するということです。
ただ、症状は2〜3日で改善するのですが、便へのウイルスの排泄は4週間程度続くので注意が必要です。
一方で、高齢者・1歳未満・免疫不全の方では重症化しやすいと言われています。該当する方は注意が必要です。
ノロウイルス感染症の症状
ノロウイルス感染症の症状は、他のウイルスによる感染性腸炎の症状と同様で、嘔気・嘔吐・水様性下痢・腹痛です。他のウイルス性胃腸炎よりも嘔気が強いと言われていますが、症状で原因ウイルスを特定することはできません。
その他、頭痛・倦怠感・全身の筋肉痛が出ることがあり、約半数で発熱があります。
ただ、無症候感染もあります。つまり、ノロウイルスが体内に入っても症状を出さない人もいるということです。
ノロウイルス感染症の治療
ノロウイルス感染症の治療は、他のウイルスによる急性胃腸炎と同様で、特別な治療薬はありません。自然に軽快するのを待つことになります。その間、脱水にならないように、水分を補充することがが重要です。
スポーツドリンクで良いのですが、経口補水液がもっともバランスが良いと言われています。大塚製薬のOS-1®がそれに該当します。糖分を多く含むソフトドリンクやジュースは避けるようにしましょう。
どうしても口から水分を摂取することができない場合は点滴が必要になりますが、少量ずつこまめに水分を摂取するようにすれば多くの方は点滴をせずに乗り切ることができます。
腹痛が強い場合は鎮痛薬、嘔気・嘔吐の症状が強い場合は制吐剤を処方することがありますが、基本的に薬物治療は不要です。整腸剤がしばしば処方されますが、有病期間を短くするというエビデンスはなく、基本的に不要です。下痢止めも推奨されていません。
ノロウイルス感染症はどのように診断されるのか?
前述の通り、ノロウイルス感染症の症状は、他の急性胃腸炎と変わりません。嘔気・嘔吐・水様性下痢・腹痛といった症状です。では、どのようにノロウイルス感染症という診断がされるのでしょうか?
ノロウイルス迅速検査という検査キットはあるのですが、保険適応になる方は以下の方に限られています。
ノロウイルス迅速検査の保険適応
- 3歳未満
- 65歳以上
- 悪性腫瘍の診断が確定している方
- 臓器移植後の方
- 抗悪性腫瘍剤・免疫抑制剤、または免疫抑制効果のある薬剤投与中の方
多くの方は保険適応にはならないのです。したがって、医療機関を受診して検査を希望してもほとんどの方は検査対象にはなりません。
しかも、上記保険適応になる方、全員に検査が行われるわけでもありません。上記の方で、3日で胃腸炎症状が改善せずかつ重症度が高い場合、他に細菌性腸炎の診断のための培養検査などと同時にノロウイルス検査も行って、ノロウイルス検査が陽性であれば診断確定するので自信をもって支持療法を行う(他の治療を中止する)、という感じです。
前述の通り、ノロウイルス感染症は他のウイルス性胃腸炎と同様、特別な治療薬はなく対処法も同じなので、検査キットを使って積極的に診断する意義が乏しいのです。
そのため、通常ノロウイルス感染症は、それらしい症状(急性胃腸炎症状)と周囲の流行状況を考えて臨床診断(検査なしで行われる診断)されることがほとんどです。
医療機関を受診せずに治すことは可能か?
では、急性胃腸炎症状(嘔気・嘔吐、腹痛、水様性下痢)が出現したとき、医療機関を受診せずに治すことは可能なのでしょうか?総合診療医かずきの意見は、「多くの方は可能」です。
嘔気・嘔吐、腹痛、水様性下痢の3つの症状が揃っている場合、急性胃腸炎の可能性が非常に高くなるので、あえて医療機関を受診せずに少量ずつこまめに水分を摂取し脱水にならないようにして回復を待つというのは十分に妥当な方法と考えられます。なぜなら受診したとしても、(多くの方は)特別な検査をするわけでもなく、特別な薬も存在しないからです。
食事は、食べられるときは食べて構いません。脂肪分や糖分の多いものは避けましょう。
嘔気・嘔吐、腹痛、水様性下痢の症状が揃っている場合、急性胃腸炎の可能性が非常に高くなるので、あえて医療機関を受診せず、少量ずつこまめに水分を摂取して脱水を避けながら回復を待つことで、多くの方は回復する
では、どのような場合に医療機関を受診すべきなのでしょうか。それについて、次の項で解説します。
医療機関を受診するべき状況は?
以下に該当する状況のときは、医療機関を受診すべきです。
嘔気・嘔吐症状が強く、水分摂取が全くできない場合
このような場合は、制吐剤の投与が必要だったり、点滴が必要だったりするので、受診が必要です。
腹痛が強いとき
このような場合も、鎮痛薬の処方や注射・点滴が必要になるので、受診しましょう。
血液混じりの下痢(下血)になっているとき
通常のウイルス性胃腸炎以外の疾患の可能性を考えなければならないので、受診が必要です。
とにかくだるい、つらい
だるい(倦怠感)、つらいという状態は、もしかしたら脱水が進行している可能性があります。このようなときは点滴が必要なことがあるので、受診した方が良いでしょう。
72時間以内に改善がみられない
通常、48〜72時間以内に回復するので、これを超えても改善がみられない場合は受診が必要です。
受診しないと不安
受診しないと不安が強いという方もいらっしゃると思います。そのような方は我慢せずに受診して良いと思います。軽症だったとしても受診して診察してもらうことで安心が得られるのであれば、その方にとってとても大きなメリットになります。体調不良に加えて、不安を抱えていると、過換気発作を起こすこともあります。無理に我慢せず、受診するほうが良いでしょう。
軽症な状態で受診すると不機嫌になってしまう医師が中にはいるかもしれません。しかし、それは良くないと総合診療医かずきは思うのです。軽症であったとしても、その方の不安をきちんと受け止めて、正しい医学的判断をもとに説明して安心させることも医師の大切な役割だからです。
感染予防
前述の通り、ノロウイルスはアルコール消毒では死滅しないので、石鹸と流水による手洗いが重要です。
汚染された服やタオルは通常の洗濯洗剤では除去できないため、ハイター®などの漂白剤につけておくことが望ましいです。
最後に
ノロウイルス感染症を含む急性ウイルス性胃腸炎について、医療機関を受診することにそこまで大きなメリットがない(検査の対象にならないことが多い、特別な治療薬がない)こと、セルフケアで回復を待つことについての妥当性、逆に医療機関を受診すべき状況、について解説しました。
皆さまの症状・状況・価値観などを総合的に考えてご判断いただければ幸いです。
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