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こどもおとなも罹る「伝染性紅斑(りんご病)」

こどもの病気
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はじめに

 伝染性紅斑(りんご病)はヒトパルボウイルスB19による感染症で、小児を中心に発症しますが成人も感染する病気です。

 こどもの伝染性紅斑は、頬に特徴的な紅斑(平手で頬を打ったような発赤)が出る(だからりんご病と言われています)のでわかりやすいのですが、成人が罹患した場合は皮疹が出ないことも多く関節リウマチなどの膠原病が疑われて過剰な検査が行われてしまう場合もあります。

 また、妊婦が感染した場合、胎児水腫や最悪流産の原因になることもあるのです。

 この記事では、こどもから大人まで幅広く診療している総合診療医かずきが、伝染性紅斑(りんご病)についてわかりやすく解説します。この記事を読むことで、どのようなときに「りんご病」を疑うべきか、どのように対応すべきか、について理解することができます。

どのような経過でどのような症状が出るのか

 それでは、伝染性紅斑(りんご病)の経過、症状について詳しく説明していきます。

伝染性紅斑の症状と感染力 〜最も感染力が強い時期は無症状?

 伝染性紅斑(りんご病)は、飛沫で感染します(飛沫感染)。飛沫というのは、咳やくしゃみに含まれる小さな水滴です。この飛沫に原因となるウイルス(ヒトパルボウイルスB19)が含まれていると、それが口や鼻、目などの粘膜に触れることで感染します。ウイルスが付着したおもちゃドアノブ手すりなどを介してうつることもあります(接触感染)。

 ウイルスの曝露を受けた後、約5〜10日が感染力が最も強い時期になります。この時期にインフルエンザ様の症状(発熱・筋肉痛・倦怠感)貧血症状を呈する方もいるのですがせいぜい全体の2〜3割程度で、7〜8割の方は無症状なのです。

 無症状だった場合、感染対策することは不可能です。

 その後、特徴的な頬の発疹が出現します。平手で叩かれたような頬の赤い発疹で、ウイルスの曝露を受けてからこの発疹が出るまでに通常1〜2週間かかります。この発疹が現れる頃には、すでに感染性はなくなっています。頬の発疹の数日後には、しばしば体幹や四肢に網目状またはレース状の発疹が現れます。

 では、伝染性紅斑の感染力について、他の感染症と比較してみましょう。

 感染力を客観的に評価するためには、基本再生産数で比較するとわかりやすくなります。

基本再生産数
  1人の感染者が、免疫を持たない集団の中で平均して何人に感染を広げるかを表す数字
  数字が大きいほど感染力が強い

疾患名基本再生産数
麻疹(はしか)12〜18
水痘(みずぼうそう)8〜10
インフルエンザ2〜3
伝染性紅斑1.5〜2.5
新型コロナウイルス(オミクロン株以降)8〜10

 比較してみると、麻疹や新型コロナウイルスほど感染力は強くないようですが、インフルエンザと同程度と考えて良さそうです。最も感染力が高い時期に、多くの方が無症状というのがやっかいですね。

おとなの伝染性紅斑(りんご病)の特徴 〜皮疹が少なく、関節痛が多い

 おとなの伝染性紅斑(りんご病)の特徴は、皮疹が出現する方が少なく、関節痛を呈する方が多い、ということです。

 皮疹が出ないということは紅斑がないということなので、厳密には伝染性紅斑という病名がそぐわないかもしれません。(厳密には「ヒトパルボウイルスB19感染症」ということになりますが、ここでは伝染性紅斑という病名で話を進めます。)

 皮疹が出ない場合、伝染性紅斑と診断されない場合が多く、原因不明の関節痛と考えられ、関節リウマチは膠原病などが疑われて様々な血液検査が行われてしまうケースがあります

 これを避けるためには、過去にさかのぼって周りで伝染性紅斑(りんご病)の方がいなかったか思い出して、担当医師に伝えることが重要になります。これが診断の大きな手がかりになるのです。

 貧血症状や血小板減少が出る場合がある

 伝染性紅斑の原因となるヒトパルボウイルスB19は、赤血球の産生を一時的に中止させるため、貧血症状を起こすこともあります。その他、血小板減少や白血球減少も起こることがあります。

 鉄欠乏性貧血など、もともと赤血球数が少ない人がヒトパルボウイルスB19に感染したときに問題となります。このような方は皮疹を起こさないことが多い(つまり成人に多い)ので、伝染性紅斑として認識されず、診断が遅れる可能性があります。

 診断のカギになるのは、やはり周囲で伝染性紅斑が流行していなかったか、になります。

繰り返しになりますが、
 過去にさかのぼって周りで伝染性紅斑(りんご病)の方がいなかったか思い出して、担当医師に伝えることがとても重要です。

妊婦が罹患した場合、胎児水腫や流産のリスクがある

 妊娠中に伝染性紅斑(りんご病)に罹患した場合、胎児水腫・流産のリスクがあるので、産科で相談する必要があります。

伝染性紅斑(りんご病)の診断はどのように行われるのか

 伝染性紅斑(りんご病)の診断は、検査なしで行われる(臨床診断)と検査によって行われる場合に2通りがあります。

検査なしで診断される場合(臨床診断)

 感染症法に基づく医師の届け出基準は以下のようになっています。

届け出のために必要な臨床症状(2つすべてを満たすもの)
 ア 左右の頬部の紅斑の出現
 イ 四肢のレース様の紅斑の出現

 この届け出基準をみると、皮疹がないと診断できません。前述の通り、皮疹が出ないケースもあるので、そのような場合は検査が必要になってきます。

検査で診断される場合

 血液検査でヒトパルボウイルスB19の血清抗体価(IgMまたはIgG)を測定することで診断することができます。皮疹が出ない場合は、血液検査が必要になりますね。

伝染性紅斑(りんご病)の治療

 基本的に自然に改善する病気なので、特別な治療法はありません

 成人に発症すると関節痛が出ることがあるので、その場合は消炎鎮痛薬が投与されます

 もともと貧血がある方だと、その貧血が顕著となり、輸血が必要になる場合があります

感染予防はどのようにすべきか

 手指衛生、くしゃみや咳をする際に口や鼻を覆う(咳エチケットの遵守)、目・口・鼻に触れない、など一般的な感染予防策を行うことが推奨されています

 新型コロナウイルス感染症の流行が始まった2020年以降、マスク着用や手洗い、ソーシャルディスタンスなどの感染対策が徹底されたことにより、伝染性紅斑を含む多くの感染症の報告数が大幅に減少しました。

 2023年5月に新型コロナウイルス感染症が2類から5類感染症に移行し、感染対策が緩和されました。その後、さまざまな感染症の報告が増えてきていますが、伝染性紅斑の報告も増えてきています。

 逆に言うと、一般的な感染予防策で伝染性紅斑を予防することはできる、ということになります。

まとめ

  1. 伝染性紅斑(りんご病)はヒトパルボウイルスB19による感染症で、小児を中心に発症するが成人も感染する病気
  2. ウイルスの曝露を受けた後約5〜10日が感染力が最も強い時期だが、多くの方は無症状
  3. ウイルスの曝露を受けてから通常1〜2週間程度で、平手で叩かれたような頬の赤い発疹が出現する。この頃には、すでに感染性はなくなっている。頬の発疹の数日後には、しばしば体幹や四肢に網目状またはレース状の発疹が現れる。
  4. おとなの伝染性紅斑は、皮疹が出現する方が少なく、関節痛を呈する方が多い
    • 伝染性紅斑の人との接触がなかったか、よく思い出して担当する医師に伝えることが診断のカギになる
    • ヒトパルボウイルスB19は赤血球の産生を一時的に中止させるため、もともと赤血球が少ない人の場合、貧血症状を起こすことがある
  5. 伝染性紅斑の基本再生産数は1.5〜2.5で、インフルエンザと同程度の感染力
  6. 妊娠中に伝染性紅斑(りんご病)に罹患した場合胎児水腫・流産のリスクがあるので、産科で相談する必要がある。
  7. 伝染性紅斑の診断は、検査なしで行われる臨床診断と、検査で診断される場合がある。
    • 臨床診断届け出のために必要な臨床症状(2つすべてを満たすもの)
       
      ア 左右の頬部の紅斑の出現
       
      イ 四肢のレース様の紅斑の出現
    • 検査による診断
      • 血液検査でヒトパルボウイルスB19の血清抗体価(IgMまたはIgG)を測定する
  8. 治療
    • 基本的に自然に改善する病気なので、特別な治療法はない。成人に発症すると関節痛が出ることがあるので、その場合は消炎鎮痛薬が投与される。
  9. 感染予防
    • 手指衛生、くしゃみや咳をする際に口や鼻を覆う(咳エチケットの遵守)、目・口・鼻に触れない、など一般的な感染予防策を行うことが推奨されている

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