はじめに
誰もが聞いたことのある病名、それが高血圧だと思います。しかし、血圧が高いだけでは基本的に症状がありません。そのため、放置してしまう方が少なくないのですが、そうしてしまうと後々脳や心臓・腎臓の病気を起こしてしまうのです。一方、しっかり血圧をコントロールできれば、かなりこれらの病気を予防することもできるのです。
また、最近は高血圧の基準について間違った認識が広まっており、総合診療医かずきは問題を感じています。この記事をぜひ読んでいただき、高血圧について正しく理解していただければ幸いです。
高血圧ってどんな病気?
- 高血圧は、治療しないと脳卒中、心不全、心臓発作、腎臓障害など深刻な合併症を引き起こす可能性がある病気ですが、合併症が起こるまでは無症状です。
- 心血管疾患の危険因子はたくさんありますが、その中で心血管疾患の死亡に最も関係しているのが高血圧です。
- 食生活の改善、運動、減量をすることで血圧を下げることができます。これらの生活習慣の変更は、単独でも効果はありますが、組み合わせて行うことでより効果が期待できます。
- 生活習慣の改善だけで目標血圧を達成できない場合が多く、血圧を下げるお薬も必要になります。
- 目標血圧を達成できると、脳卒中、心臓病、腎臓障害などの合併症をかなり予防することができます。
高血圧ってどれくらいの人が罹っているの?
- 50歳以上の男性と60歳以上の女性では50%を超えています。簡単にいうと、2人にひとりは高血圧に罹っていると言えそうです。(1980年から2016年までの36年間の解析)
- また、年齢が高くなると徐々に罹患率が高くなります。75歳以上だと7割以上の方が高血圧になっています。
血圧がどれくらいだと高血圧なの?
- 140/90mmHg以上が高血圧
- 正常血圧は120/80mmHg未満
- 目標血圧は130/80mmHg未満
いろいろな数字が出てきて紛らわしいですね。
まず、正常血圧は120/80mmHg未満 を覚えましょう。これに該当する方は全く問題ありません。
次に、高血圧は140/90mmHg以上 これを覚えましょう。これに該当する方は高血圧です。
日本のガイドライン(高血圧治療ガイドライン2019)では、診察室血圧で140/90mmHg以上、家庭血圧で135/85mmHg以上で高血圧の診断となります。
しかし、米国では130/80mmHg以上を高血圧としています。わが国がこの基準を採用していないのは、米国の基準である130/80mmHgは根拠として用いられている研究論文がほぼ日本人のデータを含んでいなかったことが理由です。そのため、従来の140/90mmHgという基準を使っていますが、120/80mmHg以上の血圧の方はそれ以下の方よりも明らかに脳や心臓の病気になりやすいという日本人のデータもあるため、正常と言い切ることはできません。したがって、日本も今後高血圧の基準が変って、米国と同様に「130/80mmHg以上が高血圧」になる可能性は十分にあると個人的には思っています。
高血圧の方の血圧の目標値は、130/80mmHg未満 となっています。
簡単に言うと、すべての方が130/80mmHg未満を目指すべき、ということになります。これを達成することで、将来の心臓病・脳卒中・腎臓障害などのリスクをかなり減らすことができるのです。
血圧が高くても基本的に無症状なので、放置する方が多いのも現実です。しかし、それは将来のことを考えるととても危険な賭けになってしまいます。
高齢者の血圧目標については別記事で解説します。
下の表は、「高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)」に記載されている血圧値の分類です。正常血圧と高血圧(Ⅰ度高血圧)との間に、「正常高値血圧」と「高値血圧」というのがあって、わかりづらいですよね。さらに、診察室血圧と家庭血圧で基準が微妙に異なっているのです。でもご安心ください。ここまで細かく覚える必要はありません。
家庭血圧についても別記事で解説します。
ここでは、正常血圧が120/80mmHg未満、高血圧が140/90mmHg以上、すべての方が目指すべき血圧は130/80mmHg未満、この3つを覚えておきましょう。
健診における高血圧の基準が変わったという誤解
2024年(令和6年)になって高血圧の基準が変わって以前より血圧が高くても許容されるという報道があったようですが、これは誤報なのでご注意ください。
厚労省による「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」には以下のように記載されています。拡張期血圧に若干の相違はあるものの、ほぼ、高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)に準拠した記載になっているのです。
- 収縮期血圧≧160mmHg 又は 拡張期血圧≧100mmHg以上
「今回、あなたの血圧はⅡ度以上の高血圧になっていました。この血圧レベルの人は、望ましい血圧レベルの人(収縮期血圧120mmHg未満 かつ 拡張期血圧80mmHg未満)の人と比べて、約5倍、脳卒中や心臓病にかかりやすいことが分かっています。正確な血圧の診断の上で、治療が必要となる血圧レベルです。この健診結果を持って、至急かかりつけの医療機関を受診してください。」 - 140mmHg≦収縮期血圧<160mmHg 又は 90mmHg≦拡張期血圧<100mmHg
「今回、あなたの血圧はⅠ度高血圧になっていました。この血圧レベルの人は、望ましい血圧レベル(収縮期血圧120mmHg未満 かつ 拡張期血圧80mmHg未満)の人と比べて、約3倍、脳卒中や心臓病にかかりやすいことが分かっています。正確な血圧の診断の上で、治療が必要となる血圧レベルです。血圧を下げるためには、減量、適度な運動、お酒を減らす、減塩、野菜を多くして果物も適度に食べるなど、生活習慣の改善が必要です。(中略)これらを実行した上で、おおむね1か月後にかかりつけの医療機関で再検査を受けてください。」 - 130mmHg≦収縮期血圧<140mmHg 又は 85mmHg≦拡張期血圧<90mmHg
「今回、あなたの血圧はやや高め(高値血圧)でした。この血圧レベルの人は、望ましい血圧レベル(収縮期血圧120mmHg未満 かつ 拡張期血圧80mmHg未満)の人と比べて、約1.5~2倍、脳卒中や心臓病にかかりやすいことが分かっています。正確な血圧の診断の上で、治療が必要となる血圧レベルです。血圧を下げるためには、減量、適度な運動、お酒を減らす、減塩、野菜を多くして果物も適度に食べるなど、生活習慣の改善が必要となります。(中略)引き続きご自身の身体の状態を確認するために、これからも健診を受診しましょう。」 - 収縮期血圧<130mmHg かつ 拡張期血圧<85mmHg
「今回、あまたの血圧値は保険指導判定値未満でした。収縮期血圧120mmHg未満かつ拡張期血圧80mmHg未満であれば望ましい血圧レベルです(正常血圧)。ご自身の身体の状態を確認するために、これからも健診を受診しましょう。」
いかがでしょうか?
140mmHg≦収縮期血圧<160mmHgの方は、「生活習慣を改善する努力をしたうえで、おおむね1か月後に再検査」という推奨になっています。一方、収縮期血圧≧160mmHgの方は「至急受診」となっています。ここを指して、高血圧の基準が160/100mmHgに緩和されたと解釈されたようですが、しっかりと読んでいただければ決して基準が緩くなったわけではないことがわかりますよね。
まとめ
- 高血圧は治療しないと脳卒中、心臓病、腎臓障害などの合併症を起こすが、合併症が起こるまでは基本的に無症状
- 食生活の改善や運動、減量などで血圧を下げることはできるが、それだけでは目標血圧を達成できないことが多く、薬による治療が必要になることが多い。
- 正常血圧は120/80mmHg未満
- 高血圧は140/90mmHg以上
- すべての方は130/80mmHg未満を目指すべき
(高齢者の血圧の目標値については別記事で解説) - 健診において高血圧の基準が緩和されたというのは誤報
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