はじめに
まずはじめに、血圧を下げる目的について確認しましょう。最終的な目的は、心臓や脳の病気の予防になります。具体的には、脳卒中や心臓病(心筋梗塞や心不全など)が該当します。誰もこのような病気にはなりたくないですよね。血圧を適切にコントロールすることで、その目的はかなり達成することができます。ここでは目標とする血圧の値を解説していきたいと思います。まず、正常な血圧の値、高血圧の定義を確認してみましょう。
- 140/90mmHg以上が高血圧(家庭血圧だと130/85mmHg以上)
- 正常血圧は120/80mmHg未満(家庭血圧だと115/75mmHg未満)
このようになっています。この値は診察室血圧を基準にしています。家庭血圧の場合はそれぞれ5mmHgずつ差し引くことに注意です。
高血圧の定義と正常血圧の間にかなりギャップがあることにお気づきかと思います。実は「正常血圧」と「高血圧」の間には、「正常高値血圧」と「高値血圧」というものが存在するのです。まぎらわしいですね。少し細かくなりますが、日本の高血圧治療ガイドライン2019では以下の表のようになっています。
これをすべて覚える必要は全くありませんが、これくらい細かく分類されているのです。これをふまえた上で、繰り返しになりますが「正常血圧」と「高血圧」の定義について、以下のことだけを覚えていただければよいと考えています。
- 140/90mmHg以上が高血圧(家庭血圧だと130/85mmHg以上)
- 正常血圧は120/80mmHg未満(家庭血圧だと115/75mmHg未満)
その上で、次にこの記事のテーマである「目標血圧をどこに設定すべきか」という点について解説していきます。
75歳未満の方の目標血圧
まず結論から、75歳未満の方の目標血圧は以下になります。
- 130/80mmHg未満
この根拠は、2015年 New England Journal of Medicine(以下NEJM)という医学雑誌に掲載されたSPRINT(the Sytolic Blood Pressure Intervention Trial)研究の結果に基づいています。この研究では50歳以上の9,361名を、収縮期血圧140mmHg未満に抑える標準治療群と、収縮期血圧120mmHg未満に抑える強化治療群に無作為に割り当てました。その結果、集中治療群の方が標準治療群よりも、心筋梗塞・急性冠症候群・脳卒中・心不全・心血管死亡の発生率を大幅に減らすことができたのです。あまりにも差が出たため、この研究は3.3年で中止されました。この研究だけで言うと120mmHg未満まで下げるのが良いということになりますが、その他に130/80mmHg未満を支持する研究が複数あるため、日本の高血圧治療ガイドライン2019には75歳未満の方について、130/80mmHg未満を目標とする、と記載されています。
2021年同じくNEJMに掲載されたSTEP Clinical Trials(Trial of Intensive Blood-Pressure Control in Older Patients with Hypertenstion)という研究があります。60-80歳の高齢者を対象とした研究で、標準治療群(目標血圧150mmHg未満)と強化治療群(目標血圧130mmHg未満)に割り当て、心血管イベント(脳卒中、急性冠症候群、心不全、心房細動、心血管死亡)を評価したものですが、強化治療群で心血管イベントのリスクを26%減らすことができました。
SPRINT研究、STEP研究いずれも、強化治療群と標準治療群で治療による副作用(めまい、失神、転倒骨折、など)に有意差はみられませんでした。以前から、血圧を積極的に下げるとめまいや失神・転倒などの有害事象が増えるという懸念がありました。そのため、古くは「年齢+90を血圧の目標にすると良い」とも言われていました。しかし、今やその考えは否定されたのです。
75歳以上 80歳以下の方の目標血圧
前述のSTEP研究に基づいて、80歳以下の方の目標血圧は以下になります。(65歳未満の方と違って拡張期血圧目標について根拠のある基準がないので、少し幅をもたせた表現にしています。)
- 130/80~90mmHg未満
もちろん、患者さんによっては、血圧を下げすぎるとめまいやふらつきが出ることがあるので、患者さんごとに目標血圧を細かく設定していく必要はあるのですが、基本的に血圧は下げれば下げるほどメリットがあるのです。
81歳以上の方の目標血圧
- 140/90mmHg未満
81歳以上の方についての大規模な研究結果はありませんが、日本の高血圧治療ガイドライン2019には、75歳以上の方の目標血圧について「140/90㎜Hg未満」と記載されており、これを目標とするのが妥当だと考えます。
おそらく、81歳以上の方でもできるだけ血圧を下げた方が脳卒中や心臓病を予防できると思うのですが、下げることによる有害事象(ふらつき、転倒など)も起こりやすくなるので、患者さんごとに細やかに目標血圧を決める必要があります。
細やかな目標血圧の設定が重要なのですが、ひとつの目安となるのが「140/90mmHg未満」ということになるでしょう。
目標血圧 まとめ
目標血圧について、総合診療医かずき的にまとめてみました。
- 75歳未満の方
- 130/80mmHg未満
- 75歳以上、80歳以下の方
- 130/80~90mmHg未満
- 81歳以上の方
- 140/90mmHg未満
異論をお持ちの方もいらっしゃると思いますが、総合診療医かずきは患者さんの脳卒中・心臓病を出来る限り予防したいと思い、このような目標を患者さんと共有しながら診療しています。もちろん、患者さんごとに細やかに目標血圧を設定しながらやっています。
皆さまも主治医の先生と相談しながら目標血圧を設定し、将来の脳卒中・心臓病を予防しましょう。
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