はじめに
コロナ禍では、熱が出たときにかかりつけと思っていた病院(診療所)で診てもらおうと思ったけど断られた、ということが多発しました。2023年5月から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が2類から5類に変更となり、今はどの医療機関でも発熱者に対応するということになっています。しかしながら、現在(2024年8月)でも発熱外来を予約制としているところもあり、予約を取ろうと思ってもすでに予約が埋まっていて受診できなかったり、予約なしで診てくれる医療機関に患者が集中し長い待ち時間が発生したりしています。
このような状況下で、軽い風邪であれば受診せずに市販薬で治したいと考えるのは自然なことです。とはいえ、本当に受診しなくて大丈夫なのか、不安を感じている方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、熱が出たときにどうだったら受診しなくても大丈夫なのか、どのようなときに受診すべきなのかを、総合診療医の視点でわかりやすく解説します。これを読むことで、熱が出たときにも安心して対応することができるようになります。
◯✕クイズ
まず、○✕クイズをやってみようと思います。
- 喉の痛みと鼻水が出て熱も出ている。風邪だと思うので、病院を受診せずに家で良くなるまでまとう。
- でも、新型コロナウイルス感染症が心配なので、市販の検査キットを購入して自分で検査をしてみよう。
- 自分でコロナ検査をして陽性だったけど、体調は徐々に良くなっているので、市販の風邪薬を飲んで治そう。
これらの3つの文章は、それぞれ◯でしょうか、✕でしょうか。考えてみてください。
答えは、この記事を読み終わったときにわかるようになっています。では、詳細をみていきましょう。
これを満たせば、「風邪」と考えてよい
以下の条件を満たしていれば「風邪」、つまり「ウイルス性上気道炎」と考えてよいです。
- 喉の痛み
- 鼻水、鼻づまり
咳は少し遅れて出てくることがあるので、1と2を満たしていれば「風邪」と考えてよいでしょう。熱も出ますが、軽症だと熱が出ないこともあるので、必須条件とはしません。
喉と鼻の症状を伴っていれば「風邪」と考えてよいのです。咳と熱は、あってもなくてもよいです。
風邪で熱が出ると、頭痛や節々の痛み、倦怠感が出ることもあります。これらの症状はどう考えたらよいでしょうか。
頭痛、節々の痛み、倦怠感といった症状はどう考える?
これらの症状は、熱に伴う症状なので「風邪」だけに特徴的な症状ではありません。
したがって、喉・鼻・咳といった症状がなく、発熱・頭痛・節々の痛み・倦怠感があるときは「風邪」以外の病気を考えなければならないので、要注意です。
熱が上がるときに寒気を感じることがありますが(悪寒)、寒気だけではなく「がたがた震えが止まらない」という症状を伴うときは注意が必要です。これは「戦慄(せんりつ)」といって、血液に細菌が入って全身を駆けめぐっているときに出る症状(菌血症)です。急いで受診し、適切な検査・治療を受けなければなりません。放置すると敗血症という死亡率が高い状態に移行してしまいます。菌血症・敗血症をきたす代表的な疾患として、急性腎盂腎炎・急性胆管炎・(ウイルス性ではない)細菌性髄膜炎などがあります。
風邪以外を考えるとき
咳と熱だけで、喉の痛みや鼻水鼻づまりがないとき
このようなときは、「肺炎」の可能性を考えなければなりません。受診すべきです。
熱や喉の痛みがなく、鼻水鼻づまりのみのとき
このようなときは、「鼻炎」の可能性を考えましょう。市販薬で経過をみても良いですが、それでも症状が続くときは受診を検討しましょう。
咳や鼻水がなく、喉の痛みと発熱のみのとき
このようなときは、「溶連菌感染症」の可能性があります。溶連菌感染症の場合、抗菌薬(いわゆる抗生物質)による治療が必要なので、受診すべきです。
「風邪」は医学的には「ウイルス性上気道炎」といいます。ウイルス性上気道炎の特徴は、喉・鼻・気管と幅広く症状を出すことです。一方、細菌感染の特徴は、ターゲットとなる標的臓器がウイルスと比べて狭いのです。肺炎の原因となる細菌は肺だけをターゲットとし、溶連菌は喉だけ、といった具合です。だから、細菌による肺炎は熱と咳だけ、溶連菌感染症は熱と喉の痛みだけ、となるわけです。
「風邪」の治療について覚えておくべきこと
風邪の治療について覚えていただきたいことを以下にまとめます。
- 治癒を早めるような治療薬はない。
- 時間が経過したら自然に治る。
- 3〜7日 長いと2週間
- 熱は3日程度でおさまることが多いが、咳鼻水は長引きやすい。
- 症状を緩和させることが治療の目的となる。
- 抗菌薬(抗生物質)は役に立たない。
- 「風邪」の原因はウイルス
- 抗菌薬(抗生物質)はウイルスに効果がない。
- 抗生物質が効果を発するのは細菌感染症
- 細菌とウイルスは別物
「風邪」を早く治したいから早めに受診するという方がいらっしゃるのですが、残念ながら早く医療機関を受診したとしても、風邪の有病期間を短くすることはできないのです。
では、次に風邪のときによく使われる薬について解説します。
風邪の治療に使われる薬(対症療法薬)
風邪の治療に使われる薬を解説します。前述の通り、あくまで症状を緩和させることが目的(対症療法)であり、有病期間を短縮させることはできません。(薬品名は一般名表記です。)
- 解熱鎮痛薬
- 頭痛・筋肉痛・関節痛などを軽減する可能性がある。
- アセトアミノフェン、イブプロフェンなど
- 抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬
- 鼻の症状の緩和
- クロルフェニラミン、フェキソフェナジンなど
- 咳止め(鎮咳薬)
- 咳の症状の緩和(ただし効果は小さい)
- デキストロメトルファン、コデインリン酸など
- 去痰薬
- 痰を切りやすくする(十分な根拠なし)
- カルボシステイン、アンブロキソールなど
これらが風邪のときに医療機関で一般的に処方される薬剤です。実は、市販の感冒薬にもこれらの成分は含まれているのです。
前述の通り、風邪の有病期間を短くすることはできないことを考えると、あえて医療機関を受診せずに、市販の感冒薬で症状をやわらげながら、自宅で静養し回復を待つというのは理にかなった選択肢であると言えます。それが本当に「風邪(ウイルス性上気道炎)」であれば、、、。
この記事を読んだみなさまは、自信を持ってこれは「風邪」だと判断できますよね。はい、その通り、喉と鼻の症状を伴っていればよいということです。もちろん、判断に迷うときは受診しましょう。
次は、風邪の症状緩和に良いとされる薬以外の方法を紹介します。
風邪の症状緩和によいとされる薬以外の方法
- はちみつ
- 咳の頻度と重症度が改善したという研究結果はあるが、しっかりとした科学的根拠はない
- ハーブ
- 十分な科学的根拠なし
- 亜鉛
- 十分な科学的根拠なし
- ビタミンC
- 普段からビタミンCサプリメントを摂取している成人のかぜ症状の持続時間は8%短いが、かぜになってからビタミンCを摂取しても持続時間は短縮されない。
咳がひどかったら「はちみつ」を試しても良いと思いますが、それ以外はあまり意味がなさそうです。ビタミンCは、風邪になってから飲み始めても効果はないし、風邪の有病期間をわずか8%短くするために普段からビタミンCを飲むというのも微妙ですよね。
新型コロナのいま
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、現在どのようになっているのでしょうか。2024年8月現在の状況を解説します。
いまの新型コロナの特徴
- オミクロン株以降、重症化が激減
- 2023年5月8日から感染症法の分類が2類から5類に変更となった。
- 季節性インフルエンザと同じ分類になった。
- 2020年は1000人のうち4.48人死亡 2022年は1000人あたり0.67人に減少
- ただ、入院患者死亡率はインフルエンザよりも高い。
- COVID-19 5.97%
- インフルエンザ 3.75%
- 他の「風邪」と症状で見分けることは「今は不可能」
- つまり普通の「風邪」と症状は同じ
- オミクロン株以降、味覚嗅覚障害の頻度は減ったし、この症状は普通の「風邪」でも起こりうる。
- 熱がないから大丈夫か?
- そんなことはなく、感染していても無症状ということもある。
- リスクのない方にとっては普通の風邪とあまり変わりなくなった。
- リスクのある人をどう守るのかが重要(この点で、インフルエンザと似ている)
よく、以前コロナに罹ったときと症状が違うので今回は違う、熱がないからコロナではない、と言う患者さんがいるのですが、コロナの症状も変異株によって異なっているし、患者さんの免疫の状況によっても変化します。以前のコロナのときの症状と違うから大丈夫だとか、味覚障害がないから大丈夫、熱がないから違う、ということは言えません。症状だけでコロナと普通の風邪を見分けることは不可能です。
同居家族に感染者がいるときなどはいわゆる「みなし陽性」とすることはできますが、それ以外の場合は診断のために検査が必要ということになります。
新型コロナウイルス感染症の診断には受診が必要?
新型コロナウイルス感染症の診断には、基本的に検査が必要です。検査には、大きくPCR検査と抗原検査の2種類があります。これらの特徴についてまとめます。
- PCR検査
- 医療機関じゃないとできない。
- 感度80%程度
- 20%見逃しあり、感染からかなり時間が経過しても陽性と出る場合がある→偽陽性
- 抗原検査
- 症状があって発症から7日以内であれば感度70%
- 30%見逃しあるが、PCR検査とそれほど遜色ない
- 医療機関だけではなくご自宅でも検査できる。
- 調剤薬局などでセルフ検査キットが市販されている。
- インフルエンザと同時に検査できるキットも市販されている。
- 症状があって発症から7日以内であれば感度70%
新型コロナウイルス感染症の検査といえばPCR検査が有名ですが、抗原検査もそれほど遜色ありません。ただ、PCR検査も抗原検査も感度が今ひとつなので、どうしても見逃しは発生します。そのため、重症化リスクが高い方では、少し時間をあけて繰り返し検査を行うこともあります。
重症化リスクに該当しない方の場合でも、仕事や学校に行って良いのかどうか判断するためという理由で、検査を希望される方がいます。その場合、調剤薬局などでセルフ検査キットを購入し自分で検査して判断するという方法があるので、必ずしも医療機関への受診が必須ではないと思います。
新型コロナウイルス感染症の治療
- 対症療法
- 普通の「風邪」と同じ治療法です。
- 重症化予防薬(ニルマトレルビルリトナビル、モルヌピラビルなど)
- 重症化リスクの高い人に投与検討
- 2023年10月から患者一部負担が始まり、2024年4月から公費負担がなくなった。
重症化予防薬の公費負担がなくなったことにより、自己負担額がかなり高額になってしまいました。
新型コロナウイルス感染症重症化予防薬の自己負担額
新型コロナの重症化予防薬の自己負担額は、その方の自己負担割合によって違っており、以下のようになっています。
- ニルマトレルビルリトナビル(パキロビッド®)薬価9万9000円
- 1割負担 約9900円
- 2割負担 約1万9800円
- 3割負担 約2万9700円
- モルヌピラビル(ラゲブリオ®)薬価9万4000円
- 1割負担 約9400円
- 2割負担 約1万8800円
- 3割負担 約2万8200円
- エンシトレルビル(ゾコーバ®)薬価5万1852円 *重症化予防効果なし、症状が24時間短縮されるのみ
- 1割負担 約5185円
- 2割負担 約1万370円
- 3割負担 約1万5556円
いかがでしょう。自己負担額が高額であることに驚きますよね。3つめに出したエンシトレルビル(ゾコーバ®)は、重症化予防効果はないことにご注意ください。あくまで症状持続時間が24時間短縮されるという効果です。それに対してこれほどの薬価を支払わなければならないのは、個人的にはかなり微妙な感じがします。
では、新型コロナの重症化リスクに該当するのはどのような方なのか、についてみていきましょう。
新型コロナ感染症の重症化リスク
- 高齢者(65歳以上)
- がん
- 心臓の病気
- 肺の病気
- 肝臓の病気
- 腎臓の病気
- 妊娠中
- 免疫不全
これらを有する方が新型コロナウイルス感染症の重症化リスクがあると考えられています。
ただ、これらの方全員に重症化予防薬が必要というわけではありません。
薬価のこともあり、リスクのある方でも重症化予防薬を希望されず、対症療法(普通の風邪と同じ治療)を行うことが多くなっています。それでも、回復する方がほとんどという印象を持っています。
重症化リスクを複数持っている方については、重症化予防薬のメリットや副作用なども含めて話し合って投与するかどうか決めています。
最初は対症療法を行った場合でも、悪化するときには重症化予防薬を検討します。投与開始する場合は、発症日を0日として5日目までに開始する必要があります。
新型コロナ感染の悪化の目安
新型コロナウイルス感染症の悪化、重症化の目安は、酸素飽和度が基準になっています。指に挟める器械で酸素飽和度を測定することができるのですが、この値で決められています。
- 酸素飽和度96%以上 軽症
- 酸素飽和度94‐96% 中等症
- 酸素飽和度93%以下 重症
いくら高熱があってつらくても、酸素飽和度が保たれていると「軽症」と判断されてしまうことにご注意ください。
酸素飽和度を測定するモニターは市販されていますので、自宅にあると便利です。私も自宅に常備しており、体調不良時は測定しています。
新型コロナに感染したときの隔離期間
2023年5月8日以降、新型コロナウイルス感染症は、感染症法の5類感染症に移行したので、法律に基づく外出自粛はありません。外出を控えるかどうかは個人は判断に委ねられますが、一応以下のことが厚生労働省から推奨されています。
- 発症日を0日目として5日目まで外出を控え、かつ、症状が軽快してから24時間は外出を控える。
- 10日間が経過するまでは、ウイルス排出の可能性があるため、不織布マスクなどを着用したり、高齢者等ハイリスク者との接触は控えるなど、周りの方へ移さないよう配慮しましょう。
また、学校への出席停止期間は「発症した後5日を経過し、かつ、症状が軽快した後1日を経過するまで」となっています。(学校保健安全法施行規則)保育所等も同様の期間を登園の目安としています。
これを基準に、各職場などの現状に合わせて療養期間を考えてもらうことになります。一般的な会社・企業であれば、症状が軽快して24時間以上経過していれば6日目からマスク着用で出勤可能だと思われますし、医療機関や高齢者施設でマンパワーが確保できるのであれば10日目まで自宅療養させることもあるでしょう。これについては、そこそこの現状を鑑みて判断してもらうしかありませんね。
◯✕クイズの答え合わせ
熱が出たときにどうする?ということで、普通の「風邪」について、新型コロナウイルス感染症のいま、について解説してきました。これらを踏まえた上で、冒頭の◯✕クイズの答え合わせをします。
まず◯✕クイズですが、このようなクイズでした。
- 喉の痛みと鼻水が出て熱も出ている。風邪だと思うので、病院を受診せずに家で良くなるまでまとう。
- でも、新型コロナウイルス感染症が心配なので、市販の検査キットを購入して自分で検査をしてみよう。
- 自分でコロナ検査をして陽性だったけど、体調は徐々に良くなっているので、市販の風邪薬を飲んで治そう。
1.ですが、喉と鼻の症状を伴っているので、これは「風邪」と考えて良いですね。しかも、解説した通り、病院を受診したとしても風邪の有病期間を短くすることはできないので、家で良くなるまで待つというのは有力な選択肢となります。したがって、◯です。
次に2.ですが、市販の検査キットの感度が70%、病院で行うPCR検査の感度が80%、市販のセルフ検査キットでもそこまで遜色ないので、セルフ検査も良い選択肢だと言えます。したがって、これも◯になりますね。
最後の3.ですが、オミクロン株以降、重症化は激減しており、リスクのない方にとっては普通の「風邪」と変わらなくなってきており、治療は普通の「風邪」と変わらない対症療法(症状を緩和させる治療)になります。風邪のときに処方される対症療法薬の成分は、市販の感冒薬にも含まれているので、市販薬で改善するまで待つというのも良い選択肢だと言えます。これも◯で良いでしょう。
まとめ
風邪(ウイルス性上気道炎)のこと、新型コロナウイルス感染症の現状について解説しましたが、いかがだったでしょうか? ◯✕クイズの答えにもありましたが、医療機関を受診しないという選択肢があることが、意外に思われたかもしれません。
誤解のないように言っておきますが、風邪で受診すべきではない、と言っているわけでは決してありません。たとえ医学的に軽微な症状であったとしても、受診するということはその方にとって大きな意味があって選択された行動のはずです。われわれ医療従事者はそれを真摯に受け止めて、適切な対応をする責務があると考えています。一方で、今回解説した内容を理解された場合、あえて受診しないという選択をされる方も一定数いらっしゃると思います。今回の記事が、みなさまの行動選択の一助になれば幸いです。
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