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百日咳ってどんな病気?総合診療医が詳しく解説

こどもの病気
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はじめに

 2025年4月現在、百日咳が流行しています。百日咳はときどき流行する疾患です。今後流行したときにも参考になると思い、今回まとめてみることにしました。小児から成人まで幅広く診ている総合診療医の視点でわかりやすく解説します。

 百日咳は、百日咳菌によって起こる感染力の強い疾患です。ワクチンが開発される前は、主に10歳未満の小児に発症するのが一般的でしたが、ワクチン導入後は青年から成人が半数以上となっています。感染した成人から乳幼児・学童に伝播することが問題になっているのです。

 特に生後4ヶ月未満で感染した場合、重症化リスクがあるので迅速な治療が必要となります。日本では、生後2ヶ月から1歳までに合計4回、百日咳ワクチン(現在は5種混合ワクチンに含まれています)を接種するのが標準スケジュールになっていますが、ワクチンをすべて受ける前は罹患する可能性があります。

 また、4回のワクチン接種から数年が経過すると徐々に効果が落ちてくるので、学童期に罹患する可能性があります。日本小児科学会では就学前にもう一度百日咳ワクチン(具体的には百日咳ワクチンが含まれる3種混合ワクチン)を接種するよう推奨していますが、こちらは任意接種(つまり無料ではなくお金がかかるワクチン)になっています。

 では、百日咳の症状や診断の方法、予防について解説していきます。

百日咳の症状

 典型的な百日咳の症状は、カタル期・発作期・回復期の3つの段階に分けられています。それぞれ解説します。

カタル期

 カタル期は、軽い咳と鼻水を伴った症状を呈する時期であり、ウイルス性上気道炎(つまり感冒)に似ています。カタル期は通常1〜2週間続きますが、この時期にウイルス性上気道炎(つまり普通の風邪)と百日咳を見分けることは極めて困難です

 あえてウイルス性上気道炎(普通感冒)との違いをあげるとすれば、ウイルス性上気道炎(普通感冒)では1〜2週間で徐々に咳は治まってきて、最初透明だった鼻水に色がついてくることが一般的です。一方、百日咳では咳は改善するどころか徐々にひどくなってきて、鼻水は水っぽいままであることが多いと言われています。

 カタル期は、最も感染力が強い時期でもあります。

発作期(または痙咳期)

 発作期の特徴は、激しい発作性の咳で、一回息を吐く間に短くて連続的な咳の後に「ヒュー」という笛のような音を伴うような息の吸い込みがみられることがあります。この「ヒュー」という音を伴う息の吸い込みは、乳児や幼児にみられることが多いと言われていますが、すべての患者さんにみられるわけではありません。「ヒュー」がないから百日咳ではないと言えないので、注意が必要です。激しい咳発作のあとに、失神したり嘔吐したりすることもあります。

 発作期は2〜8週程度続き、回復期に移行します。

回復期

 回復期は、咳の頻度と重症度が徐々に減少する段階です。通常1〜2週間続きますが、長引くこともあります。

 3つの段階の合計期間は通常3ヶ月程度ですが、もっと続くこともあると言われています。とにかく症状が長く続く病気なのです。もっと短期間で治すにはどうしたら良いのか、気になりますね。その前に診断するための検査、そもそも検査が必要なのか、について解説します。

百日咳の検査 〜検査は必須なのか?〜

 百日咳は、主に3つの検査法があります。それぞれの特徴も以下にまとめました。

 これだけ提示すると、百日咳の診断に検査が必須のような印象を与えるかもしれませんが、病期によって異なります。カタル期(つまり病初期)に診断するには、検査はほぼ必須と考えて良いでしょう。一方、発作期であれば接触歴と典型的な症状から検査なしで診断すること(臨床診断)も可能です。

 また、これらの検査は結果が出るまでに数日や1週間程度かかるものがほとんどなので、百日咳の疑いが高い場合は検査結果を待たずに治療を開始する(=抗菌薬を投与する)ことが一般的です。

 このような判断は医師によってなされるものです。総合診療医かずきのブログでは、セルフケアに重点をおいてさまざまな疾患の解説をしていますが、百日咳はセルフケアで対応するには不向きな疾患で、医療機関への受診が必要と考えてください。

 さて、次は治療についてです。これも病期によって考え方・治療効果が異なってきますので、丁寧に解説していきます。

年齢や病期ごとに考え方が違う百日咳の治療

 百日咳の治療は、患者さんの年齢や発症からの期間によって考え方が少し異なってきます。そこが難しいところです。治療についての3つの基本原則を提示しながら解説します。

原則1. 早期に(症状発症後7日以内)抗菌薬投与を開始しなければ、百日咳の症状持続期間を短縮することはできない。

 前述の通り、百日咳の発症早期は通常の感冒(ウイルス性上気道炎)と症状が似ているため、早期に診断することは極めて困難です。しかしながら、早期に抗菌薬治療を開始しないと症状持続期間を短くすることはできないのです。

原則2. 乳幼児は重症化しやすいため、早期に抗菌薬投与を開始することが望ましい。

 乳幼児の中でも生後6ヶ月未満の乳児はとくに合併症(無呼吸、肺炎、痙攣発作、脳症、死亡)のリスクが高いので、百日咳を疑った場合、検査結果を待たずに抗菌薬治療が行われます。

 ワクチン未接種の外来患者で百日咳が確認された2137例(6歳未満が80%)を対象とした多施設サーベイランス研究では、全体の合併症率は6%でしたが、6ヶ月未満の乳児では24%と非常に高い確率でした。

 一方で、成人の百日咳は乳幼児に比べると軽症です。長引く咳以外の症状がないこともあるので、感冒後咳嗽(普通の風邪のあとに咳が長引く)や咳喘息(咳しか症状のない喘息)などとの区別が難しいので、慎重に診断しなければなりません。感冒後咳嗽や咳喘息の場合、抗菌薬治療は不要です。不要な抗菌薬を処方した場合、副作用などで不利益を与える可能性もあるからです。成人の百日咳を見逃したとしてもその患者さんが重症合併症を起こすことはまずありませんが、地域に蔓延した場合、成人から乳幼児に伝播することが問題になります。適切な診断と適切な治療がやはり重要になります。

原則3. カタル期後期から咳嗽発症後3週間までの期間は、抗菌薬によって症状持続期間を短縮することはできないが、感染力を低下させることができるため投与が推奨される。(例外:1歳未満および妊婦は、咳嗽発症後6週間までであれば抗菌薬治療が推奨される。)

 百日咳と診断されて抗菌薬治療が始まれば速やかに症状が改善してほしいところですが、発症から3週間を超えてしまうと抗菌薬治療を行っても症状の持続期間を短くすることは出来ないと言われています。ただ、発症から6週間以内の場合、抗菌薬投与が行われます。これは、他者に感染させて感染が拡がってしまうことを防止するための治療です。これはちょっと残念ですね。

 学校保健法では、「特有の咳が消失するまで、または5日間の適正な抗菌薬療法が終了するまで出席停止」となっています。咳が消失するまでにはかなり時間がかかるので、抗菌薬投与がなされないとずっと登校できないことになってしまいます。こういう点からもやはり抗菌薬治療は必要ですね。

 咳症状については、咳止めなどを使用しながら治まるのを待つことになります。お察しの通り、百日咳になってしまったら長期間咳が続くことはある程度覚悟しなければなりませんね。運良く発症1週間以内に診断を受けて抗菌薬治療が開始された方は有症状期間短縮の恩恵を受けられるものの、成人ではなかなか難しいのが現状です。

 この項をまとめると以下のようになります。

  • 乳幼児(特に生後6ヶ月未満)で百日咳を疑ったときは合併症や重症化リスクがあるため治療が遅れないように抗菌薬投与の閾値を下げて対応される。
  • 成人の百日咳は軽症なので適切な診断をもとに抗菌薬を投与するが、症状持続期間を短縮させるために必要な発症7日以内の抗菌薬投与開始を実現するのは困難である。(発症7日以内は通常の感冒と区別するのが難しいため)
  • とはいえ、成人の百日咳が増えると回り回ってリスクの高い乳幼児にも伝播するので、発症から3週間以内の百日咳に対して、その患者さんに対するメリットは大きくないものの社会全体のことを考慮して抗菌薬治療が行われる。

百日咳をどのように予防すべきか?

 さて、ではこの百日咳をどのように予防するのが良いのでしょうか?

 百日咳は非常に感染しやすい病気です。感染しやすさを表す指標として基本再生産数(一人の患者が免疫のない人々何人に感染させるか)というものがあります。百日咳は、この基本再生産数が16〜21となっており、新型コロナやインフルエンザよりも感染しやすく、空気感染する麻疹(はしか)と同程度の感染力なのです。

 感染力がとても強いので通常の感染予防では対応が困難です。したがって、百日咳の予防にはワクチンが重要になってきます。百日咳ワクチンについて解説します。

5種混合ワクチン(4種混合ワクチン)

 百日咳のワクチンは現在5種混合ワクチン(2023年度までは4種混合ワクチン)に含まれており、生後2ヶ月で接種開始し、1ヶ月毎に3回接種し、1歳で4回目を接種するのが標準スケジュールになっています。ワクチン完遂していない乳児やワクチン未接種の乳幼児は百日咳の感染リスクが高まり、合併症のリスクも高まります。確実にワクチン接種を受けることをおすすめします。

 ちなみに、4種混合ワクチンは百日咳ワクチンの他に破傷風・ジフテリア・不活化ポリオワクチンが含まれており、5種混合ワクチンは4種混合ワクチンにヒブワクチンが加わったものになります。5種混合ワクチンは2024年度から導入されています。

 1歳で4回目の百日咳ワクチンを接種すれば安心、とはいかないのが問題点です。

 実は、4回接種したとしても最終接種から4〜12年で予防接種の効果が低下することがわかっているのです。つまり1歳で4回接種したとしても、5歳から13歳にはワクチンの効果が落ちているということなのです。実際に、百日咳の感染者として多いのは5歳から15歳で、全体の60%近くを占めています。

 このため、日本小児科学会では3種混合ワクチンの追加接種を推奨しています。これについても解説します。

3種混合ワクチン(DPT)

 学童期での百日咳の予防として、日本小児科学会は小学校へ上がる前(5-6歳)に3種混合ワクチン(DPT)の追加接種を推奨しています。 また、11-13歳の定期接種である2種混合ワクチンの代わりに3種混合ワクチン(DPT)を接種することを推奨しています。

 3種混合ワクチンは、百日咳・ジフテリア・破傷風ワクチンの3種が混合されたワクチンです。前述の4種混合から不活化ポリオワクチンを除いたものです。

 3種混合ワクチンを就学前と11〜13歳で接種することで、百日咳を予防することができるのでおすすめになりますが、問題が2点あります。

 ひとつは、定期接種ではなく任意接種になるので無料ではなくお金がかかるということです。医療機関によりますが、4,000〜6,500円程度かかります。

 もうひとつは、10歳以上の方に3種混合ワクチン(DPT)を接種すると局所反応(接種部位の痛み・腫れ)が強く出るという問題点があります。この問題の対策として、3種混合ワクチンの量を減らして接種するという方法海外の成人用3種混合ワクチンTdapを接種するという方法があります。(本邦では未承認であるため、これらの接種方法を行っている医療機関は極めて限られており、事前確認が必要

 海外の成人用の3種混合ワクチンであるTdap(ティーダップ)は、小児用の3種混合ワクチン(DTP)に比べて、疼痛の原因になるジフテリアトキソイドの成分を減らし、破傷風トキソイドは成人用に成分を増やしています。米国では妊婦に対する接種も承認されており、新生児百日咳の予防にも使われているのです。10歳以上の百日咳予防に最適なワクチンなのですが、日本では未承認なので取り扱っている医療機関がかなり限られていること、自己責任での接種になること、約1万円ほどの費用がかかるという問題があります。

 これらを踏まえて、百日咳予防のためのワクチン接種について以下にまとめました。

まとめ

 以下まとめです。

  • 百日咳は、百日咳菌によって起こる感染力の強い疾患。ワクチンが開発される前は、主に10歳未満の小児に発症するのが一般的だったが、ワクチン導入後は青年から成人が半数以上となっている。感染した成人から乳幼児・学童に伝播することが問題。
  • 典型的な百日咳の症状は、カタル期・発作期・回復期の3つの段階に分けられる。3つの段階を合わせると3ヶ月程度症状が続く。
    • カタル期
      • 軽い咳と鼻水を伴った症状を呈する時期であり、ウイルス性上気道炎(つまり感冒)に似ています。カタル期は通常1〜2週間続きますが、この時期にウイルス性上気道炎(つまり普通の風邪)と百日咳を見分けることは極めて困難です
    • 発作期(または痙咳期)
      • 激しい発作性の咳で、一回息を吐く間に短くて連続的な咳の後に「ヒュー」という笛のような音を伴うような息の吸い込みがみられることがある。激しい咳発作のあとに、失神したり嘔吐したりすることもある。
    • 回復期
      • 咳の頻度と重症度が徐々に減少する段階で、通常1〜2週間続く。
  • 百日咳の診断のための検査として、血液検査・遺伝子検査・培養検査がある。
    • 血液検査(百日咳に対する抗体)
      • IgA抗体、IgM抗体、IgG抗体価で判定する。
      • 結果が出るまでに1週間程度かかる。
      • 1回の採血で結果が判断できず、2週間後の再採血(ペア血清)結果との比較が必要になる場合がある。
    • 遺伝子検査(PCR法、LAMP法)
      • 鼻咽頭から採取した検体
      • 結果がでるまでに2〜3日かかる。(他の検査よりも迅速に結果が得られる。
      • 検査感度・特異度に優れている。
      • すべての医療機関で検査できるわけではない。
    • 培養検査
      • 鼻咽頭から採取した検体を培養する。
      • 結果が出るまでに約1週間程度かかる。
      • 検査陽性率が低い。
  • 百日咳の治療は、年齢や発症からの期間によって考え方が少し異なってくる。
    • 原則1. 早期に(症状発症後7日以内)抗菌薬投与を開始しなければ、百日咳の症状持続期間を短縮することはできない。
    • 原則2. 乳幼児は重症化しやすいため、早期に抗菌薬投与を開始することが望ましい。
      • 乳幼児(特に生後6ヶ月未満)で百日咳を疑ったときは合併症や重症化リスクがあるため治療が遅れないように抗菌薬投与の閾値を下げて対応される。
    • 原則3. カタル期後期から咳嗽発症後3週間までの期間は、抗菌薬によって症状持続期間を短縮することはできないが、感染力を低下させることができるため投与が推奨される。(例外:1歳未満および妊婦は、咳嗽発症後6週間までであれば抗菌薬治療が推奨される。)
      • 成人の百日咳は軽症なので適切な診断をもとに抗菌薬を投与するが、症状持続期間を短縮させるために必要な発症7日以内の抗菌薬投与開始を実現するのは困難である。(発症7日以内は通常の感冒と区別するのが難しいため)
      • とはいえ、成人の百日咳が増えると回り回ってリスクの高い乳幼児にも伝播するので、発症から3週間以内の百日咳に対して、その患者さんに対するメリットは大きくないものの社会全体のことを考慮して抗菌薬治療が行われる。
  • 百日咳は感染力がとても強いので通常の感染予防では対応が困難。予防にはワクチンが重要である
    • 生後2ヶ月から5種混合ワクチンの接種を開始し、推奨スケジュール通り、1歳で4回接種を完遂する。(定期接種)
    • 就学前(5〜6歳)に3種混合ワクチン(DPT)を1回接種する。(任意接種)
    • 11歳〜13歳に3種混合ワクチン(DPT)を1回接種する。(任意接種)
      • 局所反応を減らしたい場合、DPTの量を減らして接種するか、海外の成人用ワクチンTdap(本邦未承認)を接種するという方法はあるが、実施している医療機関は少ないので事前確認が必要

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