はじめに
みなさまは、すり傷ができたときにどのように治していますか?
ばんそうこうを貼っていますか?
私のこどもは小学生なのですが、いつもすり傷をつくります(笑)それでいて痛みに弱いので、いつも大騒ぎしています。
そんなわが家ですが、すり傷を治すときに役にたつ方法があり実践しています。これを実行することで、早く、きれいに、かつ痛くなく、すり傷を治すことが期待できるので、今回ご紹介します。
私は現在、診療所に勤務していますが、その前は比較的規模の大きな病院で総合診療科医として働いていました。病院勤務時代、褥瘡(じょくそう)対策チームの責任者を長年担っていたため、創傷治癒については数多くの経験があります。(褥瘡というのはいわゆる「床ずれ」のことです。)この経験を踏まえて、すり傷の治し方について解説していきたいと思います。
湿潤療法のすすめ
今回ご紹介するのは、「湿潤療法」というものです。
以前は、傷を空気にさらして乾燥させたほうが良いと考えられてきました。しかし、これは古い考え方で、湿った環境を維持した方が早く治ることがわかってきたのです。このことは、最初豚の皮膚における研究で示されましたが、同じ結果が人間の皮膚でも得られたのです。空気にさらして乾燥させるよりも、傷を閉鎖して湿潤環境を維持したほうが、最大40%早く治癒することがわかっています。(J Am Acad Dermatol. 1985;12(2 Pt 2):434.)
このような治し方のことを「湿潤療法」といいます。褥瘡の局所治療でも大切な考え方になります。では、すり傷を治すときにどのようにすれば良いのかを具体的に解説していきます。
すり傷の治し方
まず最初に注意点ですが、この方法はいわゆる「すり傷」には使えますが、「切り傷」や何かが刺さった傷「刺し傷」には使えません。ご注意ください。
傷の洗浄
- まず、傷の汚れを水道の水(湯)で十分に洗い流します。
- このとき、消毒は必要ありません。水道水で問題ありません。
- 汚れや異物は、傷が治ったときに皮膚の中に残ってしまうので、水道水できれいに流しましょう。やさしく手で擦ってあげてもよいでしょう。
- 痛みが強くて汚れや異物をきれいに流せないときは、医療機関への受診をおすすめします。このようなときは、局所麻酔薬を傷に浸潤させてから洗浄を行うことがあります。
下の写真は、わが家のこどもの左膝のすり傷です。学校でケガしたため、普通のばんそうこうが貼られていました。傷はまだ乾燥してはいませんでしたが、このままにしていると乾燥してしまいそうな状態でした。
傷にハイドロコロイドの被覆剤を貼る
- 傷にハイドロコロイドの被覆材を貼ります。
- キズパワーパッド®、FCモイストヒーリングパッド®、ケアリーブ治す力®など
- キズパワーパッドが有名ですが、ハイドロコロイドの被覆材に透明なフィルムがついているFCモイストヒーリングパッド®やケアリーブ治す力®の方が剥がれにくい印象があって、個人的にはおすすめです。
- 被覆材の大きさは、ハイドロコロイドの部分が余裕をもって傷を覆うことができるサイズ、具体的には傷よりも1-2cm程度余裕のあるサイズが良いです。
お湯で十分に洗浄したあとで、ハイドロコロイドの被覆材に透明なフィルムがついているFCモイストヒーリングパッド®を貼ったところです。傷からの浸出液でハイドロコロイドの色が濃く変わっています。
一度貼ったら3日間貼りっぱなし
- 一度貼ったら基本的に貼りっぱなしで良いです。お風呂もそのまま入ることができます。
- 2〜3日に1回程度、貼り替えましょう。
- ただし、傷からの浸出液が被覆材の脇から漏れてしまったときはその都度貼り替えましょう。
FCモイストヒーリングパッド®は貼りっぱなしで、毎日お風呂にも入りました。透明フィルムが周りから剥がれそうになっていますが、傷からの浸出液が湧き漏れすることはありませんでした。通常、2〜3日に1回程度の貼り替えが推奨されていますが、私は5日間貼りっぱなしにしました。痛みも腫れもなく、浸出液の脇漏れもなかったので、大丈夫だろうという自信があったからです。みなさまは、推奨されている通りに張り替えてくださいね。
あとは治るのを待つのみ
- 数日から1週間程度で治ります。
- 被覆材を張り替えるタイミングで傷を確認しましょう。薄い皮膚で傷が覆われていれば治ったと考えて、傷を開放しましょう。
5日間貼ってから剥がしたときの写真です。傷がきれいに治っているのがわかりますよね。よく見ると薄い皮で傷が完全に覆われており、この時点で治癒したと判断し、傷を開放しました。この間、痛いと言うことはありませんでした。
注意点
注意点をいくつか述べておきます。
- すっぱり切れているような傷(切創)や、刺された傷(刺創)
- このような傷を湿潤療法で治すのは困難です。医療機関への受診をおすすめします。その場合、外科、救急科、皮膚科、形成外科を標榜している医療機関が望ましいでしょう。
- やけど(熱傷)
- 熱傷は浅い傷なのか、深い傷なのかを判断するのが難しいと言われています。とくに受傷早期にそれを判断するのは不可能と言われていて、時間をかけて傷を観察しないと深達度の判定は困難です。やはり医療機関への受診が望ましいでしょう。皮膚科や形成外科を標榜している医療機関を受診しましょう。
- 傷が化膿している場合
- 傷が赤くなって、腫れて、熱を持って、ずきずきした痛みがあるときは、傷が化膿している可能性があります。すり傷でも赤くなったり痛みを出す可能性はありますが、化膿していない場合は全体が腫れたり熱を持つことはまずありません。判断に迷うときは医療機関で相談しましょう。
- 出血が止まらない傷
- まずは止血が必要です。通常、出血部を清潔なガーゼなどで一定時間圧迫することで止血を得ることができますが、出血が止まらない場合は医療機関を受診しましょう。
- 傷からの浸出液が多い場合
- 傷からの浸出液が多くて、ハイドロコロイド被覆材からすぐに脇漏れしてしまうような場合は適切な湿潤環境を維持することができないので、今回紹介した方法は適切ではありません。
- 創傷の治癒には、「適切な湿潤環境」が重要です。傷が乾燥してもだめですし、水分が多すぎてもいけません。浸出液が多すぎる場合というのは、この後者に該当します。
- このようなケースでは、浸出液をしっかり吸収してくれるようなもので傷を覆う必要があります。紙オムツのようなパッド(尿とりパッドなど)を傷に当てるのが良いでしょう。数日経過して、浸出液が減ってくるとパッドと傷がくっついてしまうようになるので、そのような状態になってからハイドロコロイド被覆材に切り替えるという方法がおすすめです。ただし、このような判断は医療従事者じゃないと難しいと思われますので、医療機関での相談が無難でしょう。
まとめ
いかがだったでしょうか?すり傷を、早く、きれいに、痛くなく、治す「湿潤療法」をご紹介させていただきました。ハイドロコロイド被覆材(キズパワーパッド®、FCモイストヒーリングパッド®、ケアリーブ治す力®など)を使うことが肝になります。注意点もまとめましたので、注意点をご確認の上、実践していただければ幸いです。
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